「ねーちゃんシケた面して暇なのかな、と。」
「………………」
ナンパなんてされたことなかったからエドワードは一瞬呆然、正直ナンパされたと言うより、喧嘩でも売られてるのかと思った。真っ赤な髪に陰険な目つき、だらっとしたスーツ、夜の歓楽街と間違えてんじゃねぇのと言いたくなる位き着崩して風貌はまさしくチンピラ。
「ちょ、ちょ、無視かよ、と!?」
しゃべり方変、と思いながらそこには突っ込まない。たぶん止まったら負けだとエドワードは直感で悟る。言うなればもう少しパリッとスーツを着こなして、髪もつんつんじゃなくてもっとせめてオールバックとかだったら話位聞いてあげていたかもしれないと思う。その思考が誰を基準にしているかなんて言うまでもなく、ともかくも見た目の誠実さという点だけならロイに軍配が上がる、とエドワードはしつこいナンパを無視しながら考える。ちゃらんぽらんした男は男じゃねぇと、大変男らしい(頑固な)信念の持ち主エドワード、男の自分が普段長い髪で三つ編みしてることなんかすっかり棚上げで。
あー、アルフォンスはどこだろうときょろきょろしながら、器用に人混みをすり抜ける。人の流れが切れたところ、疲れたというより人の熱から解放されてエドワードが一息ついたとき、後ろから腕を掴まれた。
アルフォンスの腕とは明らかに違う感蝕に、ぎょっとして振り返る。
「あー、もうすばしっこい奴だなと」
さっきのナンパ野郎。わざわざ追いかけてきたのだろうか、あの人ごみの中を。汗をかいた顔に、ナンパで一人にここまでムキになってちゃ誰も引っ掛けられないんじゃねぇのと思う。あいつがそんなこと言ってたし。スマートじゃないとか、何とか。
睨みつけて、振り切れない左手、知らない男に触られるのはこんなに気持ち悪い。
「離せよ」
「そんなに睨まなくてもいーじゃん、可愛い顔が台無しだぞっと」
にやっと笑う男の顔。決して不細工とか言う顔じゃないのに(むしろ格好いいくらい?エドワードの趣味ではない)、嫌悪感が掴まれた左腕から広がってきて、じくじくと頭まで。
嬉しくない嬉しくない。吐き気がする。気持ち悪いからその手を離せ。
変態、と叫んでやろうかと思ったが、自分は男だという思いがそれを押しとどめる、どうしてやろうか。
「離せって」
喉仏は引っ込んでも、身体の芯から出た低い声は普段とあまり変わらなかったと思う。いらいらする。
触るな触るな触るな触るな触るな触るな触るな。
とにかく早く逃げたいという思いだけが頭の中をループして、エドワードの理性は完全に吹っ飛んだ。
女になっても変わらない、身体に染み付いた構築式。ぱちんと両の手を合わせると、見慣れたまばゆい練成反応。掴まれた左腕をひねって、相手の腕を巻き込むと、甲剣化した機械鎧を、もう半ば相手の腕の肩から先、切り落とすつもりで振り上げる。
「エドワードくん!」
リザ・ホークアイの鋭い静止の声にエドワードが一瞬我に返ったときには、ナンパ男はすばやく腕を解いて、ちっと舌打ち一つ残して走り去っていた。すばやい動きにあっけにとられて、エドワードが静止するまもなく。
「大丈夫?」
駆け寄ってきた彼女は、非番だったのか見慣れた軍服とは雰囲気の違う淡い色地のフレアスカートにパンプス。
その後ろから、がしゃがしゃとアルフォンスがにいさーんと駆け寄ってくる姿が見えて、エドワードはへたっと地面に座り込んだ。
「え、エドワードくん!?」
リザは慌てて抱き起こす。大丈夫?という声にエドワードは力なく振る振ると首を振って。


純粋に怖かったんだと自覚したのは、司令部についてお茶を飲んでから。