序章


「ロイマスタングー!!」
エドワードエルリック、目下ロイマスタング東方司令部NO.2が溺愛して止まない金髪の少年が血相を変えて執務室に飛び込んできたのは、太陽もだいぶ高く昇った頃。
「エドワードくん?」
「鋼の?どうしたんだね」
尋常でないその様子に、ホークアイもマスタングもノックをしなさいと注意するのすら忘れて、ぜぇぜぇと息を切らすエドワードを見た。はぁ、と息を整えた彼は、つかつかと部屋の奥ロイとホークアイの目前まで来ると、2人の腕を取って、言った。
「……何があっても、何も言うなよ」
それだけ言うと、ごくんと唾を飲み込んで何やら決心を固めた後、2人の腕をぐいっと自分の胸に押しつけた。

『……………え?』

すっかりそのままで固まってしまったホークアイとマスタングが、なんとか人間らしく動き出せたのは後からやってきたアルフォンスが何やってるの兄さんー!!と悲鳴をあげて2人の手をエドワードから引っぺがしたからだ。もう兄さんやめてよちょっとは考えて行動してよ今兄さんは女の子なんだからね!と説教をする横で、とりあえず石化からは逃れたものの思考が追いつかない2人、無理もない、彼らが掴んだのはあるはずのないもので。
「と、とりあえず事情を説明してくれるかしら…」
ホークアイ中尉がどもるなんて1年に1回見れるか見れないかではないだろうか、何とも珍しいものが見れたものだと考えるマスタングは完全に現実逃避。
「それが…」
申し訳なさそうに(と言っても表情は変わらないが)、アルフォンスが頭を掻いて、説教を喰らってムッツリと機嫌を損ねたエドワードの代わりに事情を説明し始めた。


「つまりは、こういうことか?エドワードが路地裏を歩いていたところ、妙な方言をあやつる二足歩行の猫に正体不明の薬をすれ違いざまに投与された、とそういうことかね。」
「要約ありがとうございます大佐。それは本当なのエドワードくん」
漸く冷静を取り戻したのかホークアイ中尉、至極冷静に未だ混乱している上司を切って捨ててエドワードに向き直る。
「そう…だと思う。俺もあんまり信じらんねぇ。通り魔にあったとしか…」
確かに、すれ違いざまに注射針で薬物投与なんて、通り魔としか言いようがないだろうが、その犯人の人相が二足歩行で人後を操る猫とは一体どういうことなのか。
「他に、犯人の特徴は?」
「っていっても、俺も突然だったから…急に、ほんとに、飛び出してきたみたいな感じで、気が付いたら腕がちくってして…気配も感じられなかったし。振り向いたら猫が居て」
「何を言われたの?」
「『すみませんねぇ〜ちょっと綺麗やから悪戯させてもらいました。ほなさいなら』って」
『………………』
「そしたら急に目眩してしんどくなって、気ぃ失って気が付いたらこんな身体に。」

こんな身体、つまりはアルフォンス曰く胸があってナニがない、らしい。(ものがないのはアルフォンスも確認済みと言う事だが、まさか見せた?)外性器形態は完全に、女性。
「僕が駆けつけたときには、もう兄さん倒れてたんです。呼んでも揺すっても起きないから心配になってほっぺたつねったりしたんですけど」
「なっ、お前、それでさっき俺の頬腫れてたんか…!」
「起きない兄さんが悪いんだよ。」
言い合う兄弟を、ロイマスタングは話にも加わらずじっと見つめていたが、急に立ち上がると、つかつかとエドワードの目の前まで歩み寄った。
「……なんだよ」
警戒して身を引くエドワードの腕を掴んでぐいっと引き寄せると、ロイマスタングは躊躇いもせずもう一度彼(彼女と言った方が今は正しい?)の胸元に手をやった。アルフォンスが止めるまもなく。
『………!』
まさしくぐに、という形容が似合うほど、ロイマスタングは今度こそ故意に(先程はエドワードに強引に触らされたのと、それによるショックで思考が停止したため、揉むまでには到らなかった)胸を、揉んだ。
「……せいぜいAカップというところか?」

制裁という名のもと、エドワード・アルフォンス・ホークアイの3人から袋だたきにあったマスタングは、とりあえずアルフォンスが錬成したロープでぐるぐる巻きにされた上、部屋の隅に放置されそれっきり(恋人のエドワードにさえ)見向きもされなかったが、それでもロイマスタングは反省の色は欠片も見せず、揉んだ瞬間の胸の感触と真っ赤になったエドワードの表情を思い出してにやけていたらしいから、もうかなり重傷。