あれ、どうしたんだろう俺。
地下室で軟禁されて数日。きっと弟は心配してるに違いない。いや、もしくはロイが何か連絡をいれてるのか?わからない。病院は、患者は。俺の、久方ぶりにまともな思考だった。
でも次の瞬間人間らしい理性は離散した。再び、その行為を再開する。
その行為、ぴちゅぴちゅと眼前に差し出された肉棒に舌を添わせる。大きなそれは血管が浮き出るほど硬くなって赤黒く、先端は先走りの蜜で濡れている。俺はそれを舌の上で転がして喉を潤した。飢えるほどの喉の渇きを感じる。腹もすいている。俺は必死だった。手で根元を包んだりして、そこを愛撫しつづけた。口に入れて口内をすぼめ、自ら動いて出し入れを繰り返す。ぐちゅぐちゅと音をたてるのは完全に故意だ。俺の裸の背中に、大きな冷たい手が伸びてきて俺は鳥肌をたてた。
とてつもなく寒い。どうしてだろう、と考える。
そうか俺、今全裸なんじゃん。寒くて当然、とまで考えて思考が止まる。全裸以外に何があったっけ…?あぁ、服を着るのか。え、でも服って何だっけ?
わからない。今はどうでもいいのかもしれない。俺は舌先に力を込めてロイの猛った性器に吸い付いた。口内でどくんどくんというそれに憎悪と嫌悪感がわいてきてそれでも枯渇したままの俺の身体は潤いを求めてやまない。理性などは付け焼刃で、今俺は本能の核で動く生き物だった。
「いい子だね、鋼の。可愛いよ…。」
可愛いか可愛くないかなどは問題ではない。俺は必死になって溢れる液体を舌で掬い上げた。それでも足りない。全然足りなかった。
「鋼の、こっちを向いて?そんなに飲みたいのなら目でおねだりして見せて?」
意味不明なこと頭上から投げかけられた俺はその信号を脳で処理するのに数秒を要した。こっちを向け?おねだり?
俺はむせかえりそうになる嗚咽感で眉根を寄せながら視線を上に向けた。その渇いた両の目を見つめる。目頭が熱くなって、頬にひんやりと伝う。唇を濡らしたそれは塩辛い。
「んっ……んぅう…」
「可愛い…ほら、出すから全部飲むんだよ?」
ロイは低く呻くような声を出して、自身のそれを引き抜き、さらに俺の喉の奥の奥まで一気に挿入した。
「がッ……はぁ…」
「あぁ、いい顔をしてくれるね………っく…」
爆発的に吐き出される液体が苦くて、俺は舌の上には極力乗せないように、ロイの精液を直接喉に放り込んだ。ちゅぽん、と引き抜かれる性器。唇の端からこぼれる白濁を俺は手の甲でぬぐった。それから、何も言われずとも俺は後処理をはじめる。ロイの性器を丁寧に舌で舐めて、中に残ったわずかな精液を吸いだす。ロイは俺の頭を撫でた。
「偉い偉い、よくできた。」
喉の渇きは癒された気がした。そういえばここ最近、コレしか飲ませてもらっていないからもう他の飲み物のことなんて忘れていた。
撫でられたまま、俺は顔だけ左に向けた。薄暗い部屋に立てかけられた大きな鏡。あれに映るのは俺?うつろな金色の目をしたそれは生きる意志をそがれた獣のようで木から落ちたナマケモノのようでもあり、どこかじめじめした下水道あたりに生息している、世にも珍しい生き物。太陽を恐れて日陰を好み、地上の大人たちからは嫌われ疎外され無邪気な子どもからは蔑まれ追い回されて死ぬ。そういうモノ。汚い、けど俺は嫌いになれなかった。
だってそれは、俺自身じゃないか。白い肌についた無数の傷跡と、首に映える真っ赤な首輪は飼い犬用。伸びる四肢は華奢とは程遠いのに、どこか空虚でだらりと投げ出されたまま。
「どうしたの?」
ロイが聞いてくる。
俺はそこから視線を彼に戻した。なんでもねぇんだ、と出したはずの声はもう俺自身の耳には届かなくて、それでもロイが頷いたから奴の耳には届いたのだろう。
「四つん這いで、こちらにお尻を向けなさい?」
腹が減ったのに、と呟くと彼はこれが終わったらゴハンにしようね、と微笑んだ。
今日は鋼のの好きなハンバーグだよ?と言うから俺はハンバーグのミンチのことを思いながらロイにお尻を向けた。肉を手で開かれる感覚。真っ赤な細かいミミズみたいなミンチと腸壁のイメージは俺の中でシンクロしていて、そこに奴の舌が入ってきて俺はかすれるような喘ぎ声を出した。ぐにぐに、と孔の周りを舐めてほぐしながら侵入してくるそれに反応して、俺はひくひくと後孔を動かす。ロイの性器を咥えていたときから既に俺の前は硬くなって濡れていたのに射精はできなくて、一度は萎えかけたそこがまた腹につくくらい勃起して先端に食い込むゴムの感触が痛いのに気持ちいい。きつくなったそこは、きっととんでもない色をしているに違いないのに。
「お尻を振って、いやらしい子だね。」
「んぁッ……ひぃん、ぁッ、あんっ…」
ロイの低い声と熱い息が下肢に吹きかけられて、俺はまた声を出した。俺の声は地下室によく響く。
「最近、ちょっとゆるくなったね、鋼ののここは……ね?」
何かを確かめながら入ってくる長い指は一本ではなかった。俺は入り口を無理やり爪で引っかかれて痛みに鳴いた。
「きゃぅぅッ…はっ、はぁんっ……や、痛…」
「痛いはずがないだろう?ほら、もう気持ちいい。」
「んっ……んぁあっ、ひっ、ひやぁんっ……だ、だめっ、そ、そこ……」
一番弱いところなんてものはそこが唯一ではなかったりするのに。ロイはもう多分俺の全部を知っていて、いつどこがいいとか、何を言えばいいとか多分お見通しだと奴自身では信じているに違いない。そして俺は真実を否定するほど馬鹿じゃない。
「簡単だね。」
「…ぁあっん、ぁッ……ひっ…やぁん…」
中を掻き回されて内壁を形成していた真っ赤なミンチがぐちょぐちょと音をたてて崩れていくかんじ。せっかく綺麗に襞になっていたのに、柔らかいそこは簡単に形を変えて、ロイにかき混ぜられてぼろぼろ。ヘビースモーカーのニコチンに食い荒らされた肺胞。いや、違うな、そんなに汚いものじゃなくて、もっともっと可愛くてグロテスクなかんじ。ロイの指が俺の中を引っ掻き回して、俺の中を抉り出してそれを手でこねて今晩はそれを食うんだなぁと冷静に考えている俺が熱く快楽に喘ぐ俺を冷ややかに見下ろしている。その影が被るロイの声は背後から聞こえてきた。
「縛られてるのに、ほら、我慢できなくて前がびしょびしょだよ?いけない子だね。」
言いながらあいた手で奴が触れた先は、俺の猛った先端で、それだけで卑猥な水音がなった。
ぐちゅぐちゅぐちゅ……
「あっ、んッ、ひぃっぁ…」
前から与えられる刺激と後ろを犯される感触。それが一瞬止んで、俺は後ろを見ようとして肘を折った。尻を高くあげた状態で見れば、奴は自分の猛ったものに手を添えて、先っちょを俺のひくつく肛門にあてがっていた。
「挿入しやすいね、可愛い…」
ロイは満足げに言って、俺の腰を両手で掴んだ。一気に貫かれて、押し入れられて俺の体は跳ねた。性器に痛みが走ってそれが耐えられずに爆発した射精感だとはわかったけれど、全てを吐き出せずに逆流する精液がうねる。わずかに外気に触れたそれが俺の腹をひかえめに汚した。
「あぁっ…!!」
「っ………鋼の、もうイってしまうなんて淫乱だね。」
まだ挿入しただけだよ?の言葉に俺は俯く。喘いで叫んでだらしなく開いた唇から唾液が零れた。
ロイは長い指の爪を俺の腰に食い込ませて、何度も何度も俺の身体を乱暴に突き上げた。これだけ粗野で無造作な行為なのに、俺の気持ちいいところばかり狙われて感じて、もう何も考えられない。気持ち悪い。吐き気。胃液が喉の奥で渦巻いて強烈な酸味が痛くて、ああ、なんて。
「ひぃんっ、ぁ、ぁあ゛っ…がッ……」
唾液にまじって俺は嗚咽した。気持ち悪い。空腹に耐え切れずに吐いたのだろうか。わからない。そういえば俺って医者だったのにな、と考える。ロイが俺に与える食事は高級なものばかりだったけれど、そういえば前に食事をとったのはいつだったか。日付の感覚も時間の感覚も俺にはもうないから今太陽が出ているのか闇夜なのか見当もつかないしそれを不便だとも思わない。俺は腹にでかい空砲をかかえこんでいて、軽いけれど胃の中が空白で、なのに穴が開いているわけではない。軽く飢餓状態なのかも。
「吐いたのかね?臭い…。」
鼻につく臭いに俺も目を瞑るほど。ロイは低い声音でそう非難してから、俺の顔面をコンクリートに打ちつけた。
鼻の骨がきしんで額も思いいりぶつけて俺自身の吐き出した汚物が鼻腔からも目頭からも染みてきた。
汚物の味と鉄の味。口内を傷つけたのだろう。内側の痛みと外側の痛みに俺は悶えた。
「うぐぅっ……がはッ…」
「ごめんね。でもちょっと汚くて不愉快だから見えないようにしておくね。」
ぐりぐりと額をコンクリートに押さえつけられる。顔面を強打して血を流し、肛門を犯されて緊縛の隙間から白濁を吐き出す、そんな俺を見ているであろうロイのそこがまた質量を増した。変態って叫んでやりたい。変態変態変態。
でもそうしても、そうしたとしても奴はきっと笑っているだけ。笑って俺を見つめるだけだってわかっていた。
そうやって叫びながら性器を勃起させてる俺の方は、それ以上に変態なんだから。
俺の後頭部を押さえるロイの大きな掌が少しだけ緩められて、俺は頬を自分のゲロに浸した。酸素を求めて開いた唇に広がるのは吐きだした胃液と飲み干した他人の精液と傷口から溢れた血液と流した涙の塩っ辛さ。
「んっ……ひぐぅ…ッ」
「泣いているのかい?可愛いね。」
ロイは俺の頬を撫でながら何度も何度も繰り返し呟いた。可愛いね可愛いね可愛い。
何かの呪文のように繰り返して、玩具のように俺の後孔をついて、入り口が熱を帯びて熱くなる。
臭いにはいつのまにか耐性が出来たのか俺はまた大きな口を開いてあんあん鳴いた。
鳴いて、泣いて、どうでもよくなったときにロイが俺の性器に再び触れた。爪を立てて、食い込んだゴムをぐいっと伸ばして、バチンっと切れる音がした瞬間、俺の性器は呪縛から解放された。
「イってもいいよ?ほら、一緒にイこうね。
「あっ……ぁあッ…!」
「っ……出すよ、鋼の。」
ロイは言いながら激しく性器を打ち付けて、俺のものに爪を立てながら背中に吸い付いてきた。
そして、俺が白濁を吐き出すのとほとんど同時で、ロイも俺の中にたくさんの精液をぶちまけた。


抱いて出して抜いて玩具を放棄したロイは部屋を出て行った。シャワーを浴びにいったのだろう。
顔面を怪我したままの俺はしばらくその場に邪魔な四肢を投げ出して、しかし空腹と痛みで眠りに落ちることは許されなかった。俺は動かない足を引きずるようにして、腕を前足のようにして鏡の前まで這いつくばった。
それはそれは酷い顔だった。汚物と血で汚れた頬。ぶつけられた額はばっくりと開いて顎まで滴る鮮やかな赤。気付かなかったが、涙とコンクリートの衝撃で腫れあがった瞼とそのせいでちゃんと見えない視界。鼻の穴にへばりつく乾いた鼻血のあと。俺はそっと指先でそこに触れるた。骨折はしてないな、と更に触れて痛みに顔をしかめた。多分、ヒビは入ってると思う。それほど変形したわけじゃないしすぐには治るだろうがそれでも絶対に前の形に戻る事はない。だからと言って俺はロイに恨みを抱く気になれなかった。恨みなど何を今さら。そんな感情はとうに超えてしまっている。これは恨みとか憎悪とか殺意とか、全ての要素を持っていながらもそのどれと言い難い。
俺は嘆息した。もうそんなことはいい。
俺はその場にへたり込んで天上を見上げて手を伸ばした。届かない遥か向こうの無機質なコンクリート。
いつか絶対、この家を壊してやる。跡形もないくらいにめちゃくちゃにしてやる。
ロイはどうしてやろうか、と俺は考えた。焼死、溺死、出血死、いろいろある。医者だから知識もあるし技術もある。病死もいいかもしれないと思って、病院のベッドの上で衰弱して死んでいくロイを想像するとすごくおかしくて俺は喉の奥でくっくと笑った。
笑いながら、狭い視界がかすんで。
笑いながら俺は涙が止まらなかった。


目が覚めるとそこは地下室ではなかった。
一瞬、理解ができずに目を見開く。視界は相変わらず狭い。
「兄さん、兄さん目が覚めた?」
懐かしい声がする。俺は首だけ動かした。首の下にやわらかい感触、身体を覆う重み。
これは、俺の部屋だ。俺のベッドだ。そして、目の前にいるのは愛しい俺の弟。俺はその名を幾日かぶりに声に出した。
「アル……」
「兄さんッ!!」
俺を抱きしめる優しい腕。俺はまだ混乱していて、その腕をやんわり解いた。
「え、あの………俺は……ぇ、だって俺……」
何から言えばいいのかわからなくて、俺は情けなく呻いた。
「大丈夫だよ、兄さん。大丈夫。」
弟は穏やかな表情で、嬉しそうに言った。
「ロイマスタング、警察に捕まったんだよ。」
「え」


それから弟が俺に何か言ったようだったが、俺の耳にはしばらく何も届かなかった。



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