五
(アルエド微妙に続き・短い上にしばらくはエロシーンがなさげです…申し訳ない)
射精による疲労感を身体に抱えて、俺たちはしばらくソファで抱き合ったままじっとしていた。
どちらとも何も言わなかった。俺はしばらくして、「アル」と短く声をかけた。
アルは、さっきから表情が暗い。
「兄さん…」
「ごめんアル、どいてくれるか?俺、家帰るわ…」
とにかく今は眠りたかった。ベッドで惰眠をむさぼりたい。
アルは戸惑いながらおどおどとソファから下りた。
そのままティッシュで自分の精液を拭い、するすると服を着なおす俺を、アルは半ば呆然と見つめていた。
そんな弟をおいてけぼりのまま、俺は一言「じゃ俺帰るから。もういいだろ?」と背中越しに言った。
「え……あの…」
「何?まだ何かあんのか?」
戸惑う弟に俺は冷淡な態度をとった。
驚いた表情から、どんどん沈んでいくアルの顔を最後まで見ることもせず、俺はそのまま副院長室を後にした。
しばらくは普通の日が続いた。
あの日以来アルフォンスが何か言いたげに俺を見ていることが度々あったが俺は無視した。
ロイとも、一週間会っていない。どうやら出張で海外にいるらしいということが、昨日届いた手紙でわかった。
会えないのはたまらなく辛い、などと白々しい言葉が連ねられた手紙を俺は碌に目も通さずにシュレッダーにかけた。
さらに一週間。
俺は久しぶりに自宅で食事をとっていた。弟のアルフォンスも、テーブルに向かい合って座っている。
今日はアルが肉を焼いてくれたのでそれを黙々と食べていた。
時々アルがこちらに視線を送っているのを、俺はやはり無視した。
「ごちそうさま。」
先に食い終わって、食器を自動洗浄機に運んだ。
そのままドアに向かっている時に、とうとうアルが声を出した。
「あ、に、兄さん…」
呼び止められて振り返らないわけにもいかないから、俺は肩越しに弟を見やった。
「……何?」
「やっぱり怒ってる?この前のこと……」
アルは哀しそうな目で俺を見ている。
俺はその視線を受け流した。
「怒ってなんかねぇよ?」
「じゃあなんで…ボクのこと見てくれないの?ボクのことさけてるよね?」
「………そんなことはねぇけど…」
「嘘。絶対嘘だ。」
がたん、とイスをひく音がする。
俺は振り返らなかった。そのままリビングを出ようと片足を出した時、すぐ後ろに弟の気配を感じて身体をこわばらせた。
アルの指が、俺の髪をそっと撫でた。
「兄さん……怒って…」
アルが言葉を言い終わる前に、俺はアルの手を振り払った。
咄嗟だったので力加減が出来ず、かなり派手な音が鳴った。
「ッ…」
アルの息を呑む声が聞こえる。
俺はそれでもアルを見ようとはしなかった。
背中を向けて、
「俺に触るな。汚れるぞ?」
俺はリビングのドアを握った。
少しだけ捻ったときに、またアルが声を発する。
「ど、どうしてッ…やっぱり怒って…」
「怒ってない。」
俺は肩越しにアルを見やった。
「怒ってない。けど、この前のことは忘れろ。アル、セックスなんてのはお前が思ってるほどいいもんじゃない。わかったろ?この前やって、やり終えてどうだった?残るのは疲労感と孤立感だけだ。」
アルは黙っていた。俺の目をまっすぐに見つめていた。
その瞳が揺らいでいるのに、俺は気づいた。
動揺。動悸。うっすらと汗ばんでいるようにも見える。
「身体が繋がるなんてことは妄想だ。射精なんて生理現象だ。いいな?もう俺に触れるな。」
俺は早口にまくしたてる。おれ自身、汗ばんでいるかもしれない。瞳が揺らいでいるかもしれない。
少し、必死だった。
「お前は、俺に夢見てるだけだ。俺はアルが思うほど綺麗な人間じゃない。だからもう触れるな。」
そこまで言って、呆然としている弟に踵を返した。
ベッドに入った途端に、俺のケータイが鳴った。
メールなら後で読もうと思ってそのまま無視していたら、やけに着信音が長い。
電話だと気づき、慌ててケータイ画面を見やると、ロイ・マスタングからだった。
「わ、わりぃロイさんっ……」
「かまわないよ。久しぶりだね、鋼の。元気にしていたかい?」
耳にざわりと寒気を感じた。
ロイが、どうやら出張から帰ってきたらしい。
「久しぶり。俺は元気だぜ。」
「それはよかった。手紙は無事に着いた?」
「ああ。」
「ならちゃんと返事をしたまえよ?ちゃんと伝達できたのかと心配していたのだから。」
しらじらしい言葉。
俺はごめんなさいと謝る。
「仕方のない子だね。まぁいいさ。それより鋼の、次の非番はいつだった?」
俺はベッドのサイドテーブルにある小さいカレンダーを手にとった。
赤いペンで日付を囲っているところが数箇所。俺はその中で今日から一番近い日を伝えた。
つまりは、明後日。
「一緒に買い物に行こう、鋼の。いいね?」
俺に選択肢などない。ロイが買い物に行くのなら俺は首を縦に振るしかない。
俺は近くの駅前で10時に待ち合わせをして、電話を切った。
ふと、弟のことが脳裏をよぎった。
俺は念のため、自分の部屋に鍵をかけて眠ることにした。
→next→