ロイの家のシャワーで汗を流した。

石鹸で執拗に身体をこすって、こすりすぎて身体のいろんなところから血が出たけれど、俺は気にせず続けた。
排水溝を精液と泡と血液が渦を作って流れていく。
そうやって身体を洗い、髪を洗って、俺はロイの家を出た。
家には直接行かずに、俺は電車を乗って隣の、総合病院へ行った。
ここは、俺の勤務先でもあり、また俺の弟の職場でもある。
俺の父親はこの病院の院長だった。
昔から代々医者の家系だった俺の家では、長男がこの病院を院長として引き継ぐ、というのがならわしだった。
けれど、俺は院長にはならなかった。
というより、なれなかった。
俺は父親と愛人の間に出来た子どもだった。
だから病院を継ぐのは、俺の腹違いの弟のアルフォンスだった。
アルフォンスは俺とは一つ差で、自分で言うのも変だけど、本当に仲が良かった。
アルフォンスは俺のことを兄さんと呼んで慕ってくれた。
俺はアルと呼んで、どこへ行くにも一緒だった。
そんな様子がアルの母親、つまり俺の義理の母にあたる人にとってはあまり面白くなかったらしく、幼少時には散々いじめぬかれた。
けれど、どうということはなかった。
俺が義理の母親に散々罵られ、散々殴られた後、アルが決まって俺の側に来てくれた。
アルは、その目を真っ赤にして泣いてくれた。
「兄さんは何も悪いことしてないのに…」
身体の痛みなんか、たいしたことではなかった。アルがそうして側にいてくれるだけで、俺はどこか精神的に満たされていたから。
俺がいまだにあの家を出て行かないのは、アルフォンスがそこにいるからだと思う。
病院の自動ドアをくぐり、俺はまっすぐ副院長の部屋へ向かった。
「兄さんッ…」
机でカルテをまとめていた弟が立ち上がる。
「昨日の夜からどこ行ってたのさ!心配したんだよ?携帯にも出ないし…」
「ごめんごめん……俺昨日非番だったろ?」
「今日も非番だけど…ってそういうことじゃないよ、兄さん。心配したって言ってるの!わかる?」
連絡くらいいれてよ、という弟に、俺はすまんすまんと手を合わせた。
「どうだよ、なんかあったか?」
アルがまとめていたカルテを手にとって、俺は患者の病状を確認する。
アルの字は綺麗だから、さらさら読めて気持ちが良かった。
「へえ、この人もうすぐ退院できんじゃねぇか?最近発作もねぇみたいだしよ。」
俺は半ば独り言のようにそんなことを言いながら、アルから離れようとした。
けれど、それはアルにとめられた。
アルの一言によって、俺の足が硬直した。
「また、マスタングさんのところにいたの?」
「………。」
アルは、俺とロイの関係を知らないはずだった。
俺は少し沈黙してから、息を腹のそこまで送り込んだ。
振り返る。
笑顔で。
「そうだぜ。ロイさんとこ……あの人んちおもしれーもんいっぱいでよ。一晩中医学書読ませてもらって……んで終電なくなっちまってさ。」
「ふぅーん…」
明らかに疑わしげな視線を痛い程受けながら、俺は顔を背けた。
「仲、いいんだね。」
嘆息交じりの弟の声。
「お、おう…まぁな…」
身体が寒い。アルの言葉が痛い。
でも、言えなかった。
ロイと、俺がそんな関係だなんて、アルには知られたくなかった。
「お、俺、ちょっと仕事してくるわ…気になる患者もいるしよ。」
俺はそう言って、そそくさとその部屋を後にした。

非番なのに、白衣を着たらすぐに急患で手術にかりだされた。
夜中は、酔っ払いの交通事故、不良の喧嘩などの患者も運び込まれてきて病院は結構忙しくなる。
それでも緊急救命病棟よりはかなり楽なもので、俺はそのあとニ、三の簡単な手術を頼まれただけで、明け方には帰宅できた。
そしてそのままベッドに入る。
俺はすぐに熟睡した。夢も何も見ることはなかった。

翌日早朝に起きだして、俺はすぐに仕事の仕度をはじめた。
リビングではアルが、義母に用意された朝食を食べている。
「あ、おはよう兄さん…」
「おっす。おはよ。じゃ、俺先行くし…」
俺が軽く手をあげて行こうとすると、アルが俺を呼び止めた。
「朝ごはんは?」
「作んのめんどくせーし……どっかコンビニで適当に買うわ。」
台所に立つ義母の後姿を一瞬視界にいれてから、俺はアルに笑顔を向けた。
時間がある時は、アルは俺の朝食も用意してくれている。
が、仕事のある日はそういうわけにもいかない。
義母が俺の朝飯を出すはずがないから、俺は朝飯は食わないか、もしくはコンビニで買ってすませる。
そんな生活を、俺はかなり幼いころからやってたから、なんの苦でもない。
それでもそんな俺を、弟は不憫に思うらしい。
俺は朝飯よりも、アルがそうして俺のことを想ってくれている事実が何よりも嬉しい。
「じゃあまた病院でね…」
「ん。じゃーな。」
少し沈んだアルの頭をぐりぐりなでて、俺は笑顔で家を出た。

午前中の仕事を終え、俺は昼休みに近くの銀行へ行った。
通帳に記帳をする。
口座に振り込まれている、120万という数字。
今月分だろう。これはロイからの援助金だった。
俺の身体を代償にした、援助金。
額は月によって微妙に誤差があるが、100万を切ることはない。
口座の合計金額は、500万と少し。
俺はその数字を指でなぞって、それからすぐに病院へ戻った。

病院へ戻ると、看護師に呼び止められた。
俺に客が来ているらしい。
俺は嘆息して、応接間ではなく、病院で宛がわれた自室へ向かった。
ドアをあければ予想していた男がいる。
「やあ、鋼の。その様子だとさっそく調べてきたようだね?」
手に持った通帳を見てロイが言う。
俺はゆっくりと長いまばたきをして、それから笑顔を浮かべた。
「ロイさん、来るなら来るって言ってくれてればよかったのに。」
「たまたま近くに寄ったものだからね…君の顔が見たくなったんだ。」
嘘の笑顔はお互い様。
俺は通帳を自分の白衣にしまった。顔を上げると、もう目の前にロイが立っている。
俺よりもはるかに大きな手が俺の顎にかけられ、くいっと上を向かされる。
ロイはそのまま唇を重ねてきた。閉じた唇に無理やり舌をねじこんで、俺の口内を詮索する。
「鋼の、今晩はあいているのかね?」
俺は首を振った。今日は一晩中、病院にいなければならない。
「そうか…それは残念だ。君がいない夜は本当につまらないから。」
ロイの言葉は嘘ばかりだ。
俺がいなければ他の女を抱くだけ。それだけのくせに。
「ロイさん嘘ばっか。俺がいなかったら他の女の人家に呼ぶくせにさ。」
俺は笑ってロイの首に両腕をまわした。
「嫉妬するなぁ…俺がいない間にロイさんが抱いてる女共……」
言って、俺はロイに口づけた。
「あれはみんな遊びだよ。君とは比べ物にならないくらいの粗悪品だ。」
ロイは、目を細めて俺の頬を撫でた。
愛おしい人を愛でる、穏やかな顔だと普通なら思うかもしれない。
でもこの目は、自分のお気に入りの玩具を綺麗に磨き上げるときの目だ。
人間を、生きている人間を相手にしている目ではない。
その、どこまでも冷え切った漆黒の瞳を直視し続ける勇気は俺にはなかった。
目を伏せて、その瞳を視界から排除する。
「じゃあロイさん。俺、これから回診行かなきゃなんねぇから。」
ロイの手をそっとどけて、俺は身体を離そうとした。
ロイの両腕が、俺の身体を包む。力をこめて、自分の方へ引き寄せる大きな腕。
「もう行くのかい?」
変態。
ロイは俺の身体に自身の身体を押し付けた。
やりたいらしい。病院で、俺とセックスがやりたいらしい。
ヤリチン。
言ってやりたい。でも言うことが無駄だとわかっているから言わない。
俺はでも、本当に時間がなかった。
それに、こんなところで男とセックスをしていることが万一病院に、父親に、アルにばれるとマズイ。
しかし、ロイの機嫌を損ねるのも避けたい。
俺はロイのベルトに手をかけた。
「ロイさん…そんなに身体密着させられたら俺、我慢できなくなっちゃうだろ?」
そんな白々しいセリフを言いながら、俺は彼のズボンをおろした。
我慢出来ないのは俺ではなくロイだ。
もうすでに硬くなりつつあるそれを手で丁寧にマッサージした後、俺は口に含んだ。
口内に広がる尿と雄の臭いにはもう慣れてしまった。
俺のフェラはどうやら下手らしく、最初はロイにさんざん罵られた。
躾けてやるといいながら、指で口をこじあけられ、喉の奥までなんどもなんども突かれて、血を吐いたこともある。
今でもあまり上手くはないけど、それでもロイをイかせる事くらいなら出来るようになった。
…時間はかかるけど。
「時間がないんだろう?鋼の。」
彼はそういうと、俺の頭を掴み、喉の奥まで挿入した。
俺が苦しげにうめくのを聞きながら、何度も何度も激しくピストンした。
喉の奥から、嗚咽しそうになるのを堪えながら、俺はロイの性器に舌をからめ、唾液を混ぜ音を立てた。
いやらしい唾液の、くちゅくちゅという水っぽい音と、ロイの荒い息遣いが聞こえる。
俺の三つ編みは、ロイにかき乱され、むちゃくちゃになっているんだろう。
それからしばらくして、やっとロイは俺の喉の奥で達した。
どくどくと、汚物のような精液を満足げに俺に飲ませる。
俺はそれを一気に流し込んでから、ロイの性器を舌で綺麗にした。
少しだけ中に残った精液も搾り出すように口で吸い上げてやる。
「後処理は上手になったね。いい子だ。」
そう言って、すっかり三つ編みの解けてしまった頭を撫でるロイ。
「なぁロイさん。明日の夜はあいてんのか?」
「そうだな。明日の夜また迎えに来るよ。」
ロイはズボンをはき、ベルトを締めて、何食わぬ顔で病院を去った。
俺はトイレで顔を洗い、髪を結い直した。
口を十分に濯いでから、やっぱり普段通りの顔で10分遅れの回診を開始した。


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