前回までのあらすじ……
兄弟で慎ましくチョコボファームを経営していたアルフォンスとエドワード。
しかしそんな2人に借金取りの魔の手が迫る。アルフォンスは強欲魔神ロイマスタングから美貌の兄を守ることが出来るのか!?兄のため、アルフォンスは欲望渦巻くチョコボレーシングの世界にその身を投じた…(言うまでもなくギャグです)
「おかえりー、アル。お疲れさん」
今日も見事、海チョコボハル子と共に一稼ぎしてきたアルフォンスは、スタッフルームで兄の出迎えを受けた。
一抹の不安を抱えながらも、チョコボレーシングに参戦したアルフォンスとハル子のコンビ。出走前の彼らの不安は杞憂に終わり、さすがは海チョコボ、並のチョコボは相手にならずデビュー戦から圧勝、いきなりクラスAに配属されるという異例のコンビは、今日も今日とて荒稼ぎ。
一方エドワードとオスカー号のコンビは、金の海チョコボの活躍には一歩譲るものの、初戦からクラスBで勝利を収め、近日中にはクラスAへ昇格だとの噂も流れている。
やっぱ強いなー、と大好きな兄に頭を撫でられてアルフォンス、嫌な気がするはずもない。ありがとう、と笑ってそれから手元の時計を確認して、
「兄さんもそろそろ準備しないといけないんじゃない?」
「ん、ああ、おまえの顔見てから行こうと思ってさ。」
「兄さん…」
にこにこ笑う兄の顔はまさに天使、背中に羽が生えていないのが不思議だとアルフォンスは常々思う(それはもう、とても真剣に)。レースがあるにもかかわらず、アルフォンスに労いの言葉を掛けるため待っていてくれた兄の優しさを、アルフォンスは疑いもしていない。
「いってらっしゃい、兄さん!」
ぶんぶん手を振るアルフォンスに見送られて、スタッフルームから出たエドワードはそれまで穏やかだった表情を一変させて舌打ちをした。投票締め切り前で人が殺到する、ネオンに照らされたチケットオフィス。ギャンブルという刺激にあおられた人の欲望が熱になって上空で靄がかる中、涼しい顔でスタッフルームの前にたたずむ男が1人。
「おまえの顔見てから、ね。さすが最近人気の若手ジョッキーは、良いお兄さんとしての演技も一流のようだ。」
「もうおまえミッドガル帰れよ…」
人の悪い笑みを浮かべる極悪借金取りロイマスタング。彼を睨み付けて、エドワードは呻いた。
「ひどいね。ここまで来るのは大変なんだよ?それにさっきまでホテルで同衾していた相手に言う台詞としてはあんまりじゃないかい。君はつくづく恋人に冷たい」
「………………」
恋人。
アルフォンスは知らない。アルフォンスが、極悪借金取りで一日でも早く借金を返済して関係を切りたい思っている相手が、実は兄ととっくにそう言う関係で、兄がぎりぎりまでスタッフルームにいたのも何のことはない、ホテルでその借金取り相手に時間を忘れていちゃついていたら本当に遅刻し掛けて、慌ててスタッフルームに駆け込んで、必死で用意をしていたからなんて。
気付いていないアルフォンスに過失はない。なんたって本来不器用で嘘がつけない兄が、慣れない嘘を弟に吐いてまで必死にこの関係をひた隠しにしているのだから。
「そうそう、このレースが終わったら、コスタでバカンスでもどうかね。なんなら弟くんも一緒に…」
「関係者以外はこの先は立ち入らないで下さーい」
警備の人に足止めを喰らうロイを尻目に、エドワードはレース場へ。気が付けば汗をかいていた。胸の動悸も酷い。騎手がこんなに動揺して――きっと聡いオスカー号にはばれるだろう、それくらいで調子を乱すようなチョコボではないが。
負ける心配はない――参戦して一ヶ月、ほぼ負け知らず。寧ろエドワードの不安は、いつアルフォンスにこの関係がばれるかどうかだ。
借金借金とロイがファームに通い詰めていたのも、元はと言えばエドワードに一目惚れしたからで、エドワードもエドワードで、ロイの平均以上の顔とテクであっさり陥落してしまったとは。
「オスカー号…俺は一体どうしたら良いんだろうなぁ…」
オスカー号の首筋を撫でながら、愚痴をこぼす。チョコボ相手しか愚痴れない自分が哀しい――とは思ってもまさかアルフォンスに言うわけにはいかず、賢い黒い相棒の気遣うような視線にエドワードは力ない笑顔を浮かべてゲートに向かった。