それは暑い夜のことで、眠れないと一番に言い出したのはルフィだった。喉が渇いたとサンジを叩き起こし、無理矢理厨房まで連行されたサンジが眠い目をこすりながらルフィに悪態を付き罵声を浴びせ、その音になんだなんだと野次馬根性でウソップとチョッパーがわらわらと寄ってきた。
ひとしきり4人で大騒ぎした挙げ句、すっかり目の冴えたサンジが、夜食を甲板に並べたときには、いつのまにやら残りの船員も全員大集合していて、すっかり宴会モードに突入していた。
そうなると結局誰も止めないから、夜通しお祭り騒ぎになる。
「それにしても、ロビンの能力って便利よねぇ」
いくら夜目が利くといっても、1mも離れれば相手の顔色なんて見えないが、陽気な声と間延びした語尾の拙さが、酔いを如実に伝える。
航海士さん、飲み過ぎじゃない?とロビンは苦笑した。
げらげらげらとルフィとウソップの笑い声が、見渡す限りの海原にどこまでも響いていく。
こんなに陽気なのは――、とロビンは思う。月並みだけれど。――生まれて初めてじゃないかしら。
ルフィとウソップが一発芸を始め、最初彼らを馬鹿にして囃し立てる側だったサンジまでもが芸を披露する側に加わった頃、良い感じに出来上がったチョッパーが輪から抜けてふらふらとロビンの方にやってきた。
酔ってしまうからと飲むのを嫌がっていたのに、結局雰囲気に乗せられたのか。明日は船医が一番の重症患者になってしまうだろう。千鳥足で今にも頭から床に倒れそうなチョッパーを、にょき、と甲板から生えた二本の腕が支えた。
「船医さんもほら、飲み過ぎよ」
「ろびんありがと…」
律儀にもお礼を言って力尽きたチョッパーを、ぽんぽんぽんと船室に向かって一直線に生えた腕が、バケツリレーよろしくチョッパーを渡していく。
最後、船室に一番近い腕が扉を開けてチョッパーを中に放り込んだ。その様子をぼぉーと視点の定まらない目で見ていたナミは、腕が甲板から現れたときのようにコミカルな音を立てて消えるのを見て、ほぉっとため息をついた。
「やっぱり便利」
「そうね、今みたいな時には」
「今みたいな時じゃなくても、ねぇゾロ」
ルフィ達の輪にも加わらず、だからといって勿論女2人の酒盛りにも付き合わずに、隅で1人ちびちびと酒を飲んでいたゾロは、眉間に皺を寄せてああん?を顔を上げた。
強面で決して印象は良くないが、自分にかけられた言葉を邪険にしない辺り、この剣士の素直さを顕していると思う。
「ロビンの能力よ、便利じゃない?腕が三本にだってなるのよ。あんたもそしたら今よりもっと三刀流になるわよ!」
「…………」
おや、とロビンは思った。彼が笑い飛ばすと思ったからだ。
しかしこの強面の剣士は、予想に反して、短絡的とさえ言える酔っぱらいの言葉(失礼)に真剣に考え込んでいる。
「剣士さん?」
一方ナミは、言いたいことだけ言って満足したのか、既に一人残り物のプリンをつつく事に夢中になっている(食べる気はないらしい)。その様子に、席を立っても問題ないと判断して、ロビンはゾロの横に腰を下ろした。
ゾロがちらりと咎めるように睨んだが、にっこりと微笑んで受け流す。
「三刀流の話だけど」
どう切り出そうか一瞬迷ったが、下手な慰めとかフォローとか、そういうのはこのプライド高い剣士さんには逆効果、と思う。
「格好良いと思うわ、剣士さんは」
「はぁ?」
「腕が三本あったら、の話」
「ああ、確かにそりゃ三刀流だな、紛れもなく」
「そうね。でもあなたは、それじゃ満足しないんでしょう?」
「俺にゃこの二本で十分だ」
「知ってるわ」
知ってるわ、とロビンは呟く。こんなに言葉が多いのも、酒が入ったせいかしら、と彼女は嗤う。
月明かりの下、昔は月明かりなんて、逃亡の邪魔になるとしか考えたことがなかった。
月明かりの下、それが今や自分がぎゃあぎゃあとこんなにも騒ぐ中に身を置いて。
だから、普段言わないような、思わないような言葉も口に付いたのかも知れない。

格好良いわ。

確かめるように、月明かりに向かって。決して隣の剣士に言ったつもりではなかったのだけれど、それでも剣士はにやり、と笑った。
悪魔の実に頼らない、己の身体一つで頂を目指す男が。