車掌さん

*ミュラースキーさんはあまり読まない方がよろしいかもしれません*
*エドワードがやたら下品ですご注意下さい。*


株式会社銀河鉄道は大企業である。その大企業で活躍する列車の中で一番高級な、そして一番の誇りを持った銀河超特急999(スリーナイン)号の車掌として働くことは彼にとってとても栄誉なことだった。
ナイトハルト・ミュラーは今年で27歳になる。好きなものは仕事。嫌いなものは風呂。
彼は、そう、入浴が嫌いだった。服をぬぎたくないのだ。
彼は地球人を祖先とはしなかった。人間ではないのだ。外見上の差はほとんどなかった。如実に違う部分はたった一箇所だけ。それが入浴時に露わになるためにミュラーは、入浴を嫌悪した。
「ミュラー、卿もそろそろ風呂へ入ったらどうだ?」
次の停車駅を告げに、二等車両へ来た彼にそう言ったのはラインハルトだった。車内にもかかわらず真っ黒い帽子をかぶったまま、金髪をかきあげる。
「いえあの私は…」
「今エドワードにも言ったんだ。こいつもあまり風呂に入らないから…」
そう言って目の前で無心に本を読んでいるエドワードを見やったが、言われた当の本人は読書に夢中で気づかない。そんな彼にラインハルトは苦笑して視線をミュラーに戻した。
「私が一緒に入ってやろうか?」
小悪魔な笑顔で言われてミュラーは慌てて両手を振った。最近の悩みの種である彼女にミュラーは頬を染める。
「い、いいいいえそのようなことはあのっ…」
「あはは、冗談だ。ミュラーは面白いな。」
ラインハルトは一笑してその話題をすぐに忘れてしまったが、ミュラーはその夜ずっとそのことを想像してなかなか寝付けなかったという。

翌日。
次の停車駅は、と若い声がしてラインハルトは顔をあげた。微笑むアルフォンスと目があって、慌てて雑誌に視線を戻す。
青い制服が眩しいアルフォンスは年若い新人車掌だが、かなりの美青年で会社内での人気も高いという。
ラインハルトは彼が苦手だった。やけに鼻につく香水もその苦手要因の一つだ。
「あれ、ミュラーさんは?さっきから見ないけど。」
本から顔をあげてエドワードが聞くと、アルフォンスは、
「ミュラーさんならなんだかタオルを持って……お風呂じゃないですか?」
「風呂!?うげぇ…」
エドワードが舌を出す。
「エドワードも一緒に入ってきたらどうだ?すっきりするぞ?」
「ぜぇぇぇったいイや。」
エドワードの言葉にラインハルトが苦笑する。エドワードは窓の外を見つめながら、なんとなく声を出した。
「そういえばさ…ミュラーさんていつも帽子目深に被ってるよな。」
「ああ。」
「熱い惑星降りても制服、脱がないよな。」
「そうだな。」
「ミュラーさんて地球人じゃないんだっけ?」
「違うらしいですね。」
最後はアルフォンスがにこやかに答えた。
ラインハルトと、エドワードが無言で見つめあう。そして同時に立ち上がった。

「しゃしょーさーん!!」
どんどんどんどん!!!
風呂場のドアをエドワードとラインハルトが叩く。ミュラーの泣きそうな声が浴室に響いた。
「ちょ、こ、こまりますよエドワードさん、ラインハルトさん!や、やめてください!!」
「いいじゃねぇかよーちょっと開けろよ。」
ふざけた風にエドワード。ラインハルトも頷いた。
「私もミュラーの裸が見たい。人間とは違うのか?」
「そ、そんな興味本位な…」
弱々しい返答。エドワードは、ラインハルトを見上げた。
「ってかラインハルトに見られるのは嫌なんじゃね?男として。」
「何故だ。」
「だってほら……なぁ?」
エドワードがちらっと後ろを見やる。少し離れた場所でアルフォンス、にこにこと人のいい笑顔で黙ってたっているだけだった。エドワードはうーん、と唸って天井を見上げる。
「だってミュラーさんも男だろ。」
「ああ。」
「女に見られたくないじゃん。ちんちんとか。」
「なッ……!」
「え、気づいてなかったの?」
帽子が一センチは浮き上がるほど驚いて見せた彼女に、エドワードは嘆息した。
「み、みみみたくない!汚い!!汚らわしい!!!」
風呂場の向こうで誰かが転んだ音が響いた。エドワードがあーあ、と声を出してから呟く。
「いやそれは可哀想だろ…俺もちょっと傷つくんだけど…」
「私は一抜けたッ!座席に戻る!!」
風呂場から聞こえる泣き声とエドワードの言葉を全部無視して走り去るラインハルトを見送って、エドワードは再びドアを叩いた。
「ミュラーさーん!ほら、ラインハルトもいなくなったし…」
「今、汚いとかおっしゃってませんでした?」
しくしく聞こえてくる情け無い声にエドワードは同情する。あれだけ言われちゃ傷つくよな、と彼女の潔癖な横顔を思った。
潔癖なくせに好奇心旺盛なんだから……。
「言ってない言ってない、空耳だって。それよりさ、ミュラーさんて俺らと何が違うの?」
エドワードは尚も食い下がる。
「ほら、男同士なんだし……ってあ!」
「な、なんですかエドワードさん!?」
「ミュラーさんのちんこ見せて。」
「嫌です!!!」
「ははーん…」
エドワードは顎の下に手を添えた。にやり、と嫌な笑みを浮かべる。風呂の中からは見えないはずだが、その微妙な雰囲気だけは彼に伝わったようである。
「なんですか…?」
おろおろと言う彼の声はとても27歳には聞こえなかった。ガキみたいで可愛い、と客観的にはまだまだ子どもなエドワードが思うほどだった。
「ミュラーさん、ちんちんの形が俺らと違うんだ!」
「え、いやあの…」
「ふっふっふ…ラインハルトもいなくなったし必殺技で…」
エドワードは両手を合わせる。ぱんっと軽い音がして眩しい光が脱衣所を包み込む。
「れんせーい!!」
どんっ
派手な音とともにドアにぽっかりと穴が開く。もわーと、まず立ち込めた湯気が流れ出して、エドワードはその金色の瞳を凝らした。
じぃっと、集中すればミュラーの姿がみえる。人間の男性と同じ、程よく鍛えられたたくましい肉体が見える。
エドワードはその足の付け根を見た。湯煙が晴れてそこが露わになるまでそう時間はかからなかった。
ミュラーは、初めてみるエドワードの錬金術に驚いて声が出ない。彼が慌てて前を隠すまでの数秒、エドワードはそこをじっと見つめ続けた。
「ちょ、な、ずるいですよエドワードさん!!」
慌ててミュラーがタオルで隠したが、エドワードはぽっかりとあいた口がふさがらなかった。
しばらくしてから、ぽそりという。
「いぼいぼ二股ちんこ……」
「大人の玩具みたいですね。」
後ろで呟いたアルフォンスの声が、これ以上ないほどに客観的な声音で、脱衣所に木霊して消えた。