「エドワードさん、なんか臭う…」
出会い頭。珍しく食事の時間に遅れなかったエドワードは、それなのにアルフォンスから手痛い歓迎を受けた。
平素のアルフォンスからはあまり考えられない、反射的に出た刺のある言葉に、え、と言う顔をしてエドワードは固まった。そして自分が(アルフォンスの許容値を軽く超えるほど)臭いんだということを、彼の反応から察したが、いくらエドワードでも、それを素直に認められるほど厚顔ではなかった。
「臭う、かな」
くん、と服の裾に鼻を近づけて、お茶を濁す。普段なら「エドワードさん犬みたいで可愛い」と微笑ましく感じる行為にも、アルフォンスは眉をひそめる。そして数歩エドワードから距離を取った。その正直すぎる言動に、エドワードは些かショックを受けた。
普段が優しい分、なおさら。
「臭います、かなり。何の臭いですかそれ、怪しい薬品使ってるんじゃないですか」
「アルフォンスなんか今日きつい…」
「空きっ腹にそんな臭い嗅がされたら誰だってテンション下がります、シャワー浴びてきて下さい」
「お」
れだってお腹空いてるんだけど、と反論する権利はエドワードになかった。氷のように冷たい瞳の一睨みで言葉を遮られて、エドワードはぐぅ、と下を向く。
「……シャワー浴びてきます」
「お願いします。あ、僕の部屋のシャワー使いますか?それなら食事そっちに運んでゆっくり食べれますし。」
「え」
回れ右したエドワードが、首だけ反転させて上擦った声を上げた。
「嫌ですか?」
アルフォンスはあくまで彼には近寄らず、その場でにっこりと微笑む。いつもならここでエドワードが逃げないように腕を掴んで引き寄せて耳元で囁くコンボを決めるのに、今日はもう近寄る素振りすらない。
「嫌じゃないけど、アルフォンスの部屋いったら前エロい事されたから」
「キスしただけじゃないですか。僕のことどついて突き飛ばして逃げた癖に」
「きっ…!」
ききき、と言葉に詰まってコウモリみたいな声を出すエドワードを、アルフォンスは宥めるように言う。優しそうな笑顔で。
「シャワー浴びに塔まで戻ってたら、ご飯食べるのもっと遅くなりますよ?」
そうかな、と迷い始めたエドワードに、その笑顔のまま、
「それに、そんな腐った卵みたいな臭いする人に、手出しません。」
と、とどめを刺した。
「手ぇ出さないってゆったじゃんか…!」
風呂上がり、待っていましたとばかりにアルフォンスはエドワードの背後からその小柄な身体を抱きしめる。さっきの臭いは大分消えて、少し湿ったうなじに顔を埋めると、いつも自分が使っている石鹸の匂いがして安心した。
「だってさっきのエドワードさん、あんまりにも臭うんですもん。いくら僕でも萎えたし」
「今さらっと酷いことゆった…!」
腕から逃れようと背筋を反らせてばたつくエドワードを押さえつける。体重を掛けて寄りかかられて、エドワードはもたつく。
「おーれーは!お腹がすいたの!飯!」
めしー!と呻るエドワード、普段自分が研究に没頭しているときは寝食くらい忘れているのに、どこからその食事への執念が湧いたのか、それともただこの状況から逃れたいだけか。アルフォンスは後者だろうなぁと見当を付けていたから、エドワードが飯とか餓死するとか叫んでも取り合わなかった。
「一食抜いたくらいで餓死するなら、エドワードさん今頃とっくにお墓の下でしょ、寧ろ一回死んでみろ」
「ちょ、アルフォンスが暴言はいた!」
わーわーと子供みたいに喚くエドワードの顎を捕らえて、正面を向かせる。ひゃ、とエドワードの口から空気が抜けるような音がして、それきり黙った。
「可愛い可愛いエドワードさん、大人しく食べられて下さい?ほら、それに僕、エドワードさんのご主人様だし」
血が上って赤くなったエドワードの耳たぶに優しく噛みついて、くすくす耳元で聞こえよがしに笑う。
「誰がご主人だ…!」
「それくらい反骨心あった方がやりがいがあって好きです。」
バスローブを羽織っただけの胸元に手を入れる。勿論、着替えどうぞ、と言ってこれを用意したのもアルフォンス。ただでさえ慣れない生地の感触に混じって、すべすべして冷たいアルフォンスの手が侵入してきて、エドワードはこわばった。
「反応が判りやすくて可愛い…」
「うっさい…!」
口で何とか抵抗しつつ、泣きそうなくらい顔は歪んでいた。背中越しにアルフォンスの身体が震えて、エドワードは更に泣きそうになった。
ベッドはこっち、と誘導されて、抵抗するまもなくエドワードの身体が柔らかいスプリングに沈む。それを追いかけてアルフォンスがエドワードに口付ける。
「やっぱりこっちの方が良いな、エドワードさんの顔が見えるし」
「全然良くないし…」
言葉面だけなんとか威勢をはっているものの、声にはすっかり力がない。首まで逆上せた見たいに真っ赤になって、ああどうしようと俯いて視線を逸らそうとして、軽く顎を持ち上げられる。
「そんな顔逸らされたら、寂しいですよ」
キスされて、ん、と出た声が女みたいでエドワードは嫌だったが、アルフォンスは喜んだ。顔を離して微笑んで、ベッドにエドワードを押しつける。
「すごく可愛いですね」
「全然嬉しくない」
そんなかわいげのない返事を可愛いなぁと思いながら、アルフォンスは露わになった首筋から順々に唇を沿わせていく。
「ひ、…ぅ……。………ぐー…」
「せっかく可愛い声でたのに余計な声付け加えないで下さい」
「だってはずいし…!」
顔を上げて眉を寄せるアルフォンスに、エドワードが焦って反論する。
「恥ずかしくないですから、ほら。」
僕もたってる、と言われて、エドワードはびくり、と身体を震わせる。顎をあげて自分に覆い被さっている男の下半身に恐る恐る視線を走らせて、ぎゃと叫んだ。身体を捻ろうとした所をアルフォンスが制する。
「だから恥ずかしがらないで、気持ちいいのは一緒ですから」
ひ、と悲鳴を上げ掛けたエドワードの半開きの唇に、アルフォンスは舌を沿わせて薄皮一枚隔てたぎりぎりのところで歯を立てて、その柔らかさを堪能、そのまま噛み千切りたいという衝動に駆られる。その唇の柔らかさに自制できそうになくてアルフォンスは唇を離した。
耳まで真っ赤にして、噛まれた唇を押さえて固まるエドワードの額に額を当てる。
「まだ、駄目っていいます?」
鼻と鼻がくっつくくらいの至近距離で小首をかしげて、アルフォンスは囁いた。
エドワードの身体中にキスをして、粘膜を傷付けないようにエドワードの先走りを指に絡めて固く閉じたそこを優しく解す。いちいちエドワードがあげる小さな悲鳴が耳に心地よくて、アルフォンスは目を閉じる。暑い、と言うアルフォンスの呟きを聞いて、エドワードがおずおずとアルフォンスのシャツのボタンを外す。ありがとう、と言う代わりに指を奥まで突き立ててかき回す。
「ひぃっ…や、…ちょ、まって、ぁあ…!」
「待たないよ」
喘いで身体を反らすエドワードの頭を押さえて、目を合わせる。たちあがったそこを掌で撫でると、エドワードの身体がびくりと震えた。
「気持ちいい?」
目を閉じてアルフォンスの視線から逃れようとするエドワードに顔を寄せて、金色の睫毛に唇を触れさせる。
「可愛い」
エドワードの金色の眼が零れそうなくらい見開かれて、溶けてしまうんじゃないかと言うくらい頬が真っ赤に熱を持つ。
「アル、俺…」
ひらき掛けたエドワードの唇にキスをして、アルフォンスはベルトを外す。
かちゃかちゃいう金属音にエドワードが怖じて身体を引くのを、アルフォンスが腕を回して止めた。
「……だーめ、逃がさないから」
「腹が減って気持ち悪いー…」
「そう言えばご飯食べてませんでしたっけ、エドワードさん」
「おまえ、ちゃっかり俺がシャワー浴びてる間に食べただろ…!」
「食べましたよ」
悪びれもなく肯定して、布団にうずくまったままのエドワードの髪を撫でた。むーとむくれるエドワードに、アルフォンスは、思い出して苦笑する。
「それはエドワードさんが悪いんですよ、本当に臭かったんですから。あのままで食卓に座られるとか、ぞっとしませんし」
「腹減ったー死ぬー」
拗ねたのか、それとももう反論する気力も残っていないのか、空腹「だけ」を訴え続けるエドワードに、アルフォンスは笑って、まかない婦に夜食を頼むために腰を上げた。