最後に鋼のの姿を見たのは15分前。食い物買ってくると言って当然のごとくその白い手袋に包まれた手のひらを突きつけられて私は仕方なく小銭を渡した。大佐はそこにいろよ、いいか何があっても動くんじゃねぇぞ?という彼の後ろ姿に兄の風格をみつつ私は近くの石造りの花壇に腰を下ろした。大人より頭二つ分ほど小さい彼は人混みに消えてすぐに見えなくなって。綺麗なご婦人方に手を振られて名前を呼ばれて正直私の記憶にはない彼女らとのデートを笑って懐かしむフリだけして時間を潰すつもりが時間を忘れていた私は、「今日はまさかお一人で?」の言葉でようやく思い出した。
鋼のが帰ってこない。
イーストシティの謝肉祭はアメストリスでも有数の祭典で、三日間にわたって開催されるそれはテロの対象にはなり得ただろうがそんな危惧よりもやはり目前の楽しみに転がってしまう人間が大半のようで。<
警備兵は大変だなぁと黒い制服を見かけるたびに思ってしまう。
私は鋼のと一緒に祭に来ていた。アルフォンスとは昨日来たらしい。<br>彼は昨日得た新鮮な知識でもって私を案内してやるといって意気揚々としていたが、すぐに腹が減ったと言い出した。
「どこかに入るかい?」
そう聞くと、彼はわかっちゃいねーな大佐は、と両手を広げてみせる。
「こういうときのための屋台じゃん!っていうか屋台で飯食わなきゃ祭にきた感じがしねぇ。」
そうして小銭をあげて言われたとおりに待っていたのに。
「困ったな……こういうとき動かないのが鉄則なんだがなぁ…」
私が動くと意味が無いのに。<br>わかってはいるけれど。
焼きそばと綿菓子を抱えて俺が元の場所にいると大佐がいなかった。
っのヤロー……どぉこ行きやがったんだ?まさかビールでも買いに行ったか?
アルフォンスだってこんな人ごみ、勝手にどこかへ行ったりはしないのに。俺は嘆息した。
俺がすべきことは一つ。ここでひたすら待つことだ。そうすりゃ多分あいつも戻ってくるだろう。
そう、わかっちゃいるんだけど。
こんな人ごみを二つ名で呼ぶのも変だと思った私は、呼びなれない彼の名前を呼び続けた。
エド、エド、エドワード。豆、ちび、ミジンコー?
それでもあの小さい金髪の三つ編みは見えなくて、段々不安になってきて。ああ、もうなんだってこんなに人が多いんだとイラついた気持ちを落ち着かせるように彼の名前を呼んで呼び続けて。
私は通りの一番端っこまで来てしまった。
大佐ー大佐ーと呼びながら歩く。焼きそばとわたあめをかばいながら歩くにはきつすぎる道のりだった。誰かに青海苔とマヨネーズつけそうで怖い。
俺は呼びながら、人探しで階級呼びすんのは変かなと考えて途中から名前で呼ぶことに切り替えた。呼びなれない名前。ロイ。ロイ。おーい、無能ー。
でも彼の姿は見えなくて、人ごみをかきわけてかきわけて。<br>とうとう大通りの隅っこまで出てきてしまった。
『あ。』
エド:なんでその場から動くんだよ馬鹿!無能!!
ロイ:なんでって君が来ないから……心配したんだろうが。
エド:心配って…
ロイ:だいたい君は俺に心配……
エド:あ…
ロイ:え?
エド:ロイってさ。
ロイ:なんだね。
エド:自分のこと、俺って言うんだ。
ロイ:え。
エド:言ったじゃん今。
ロイ:……言ったかい?
エド:いった。
ロイ:そうか。
エド:うん、そう。食べる?焼きそば。
ロイ:ん。っていうかお釣りあったろう?
エド:ん?
ロイ:おつり。
エド:うん。ん?いや、ないない。
ロイ:こら。
エド:なんだよ、みみっちい男だな。
ロイ:まぁいいよ。
エド:なぁ、ロイ。
ロイ:何?
エド:キスして?
ロイ:綿菓子の、甘い味がするね。
エド:今まさに食ってるし。
ロイ:可愛いね。
エド:あんたもな。
ロイ:エド。
エド:何?
ロイ:愛してるよ。
エド:俺も。
「ひっ…ひゃー!!!は、鋼の!え、エドワード!!」
「何情けない声出してんだよ…どしたー?」
「ご、ご、ゴキ!」
「……ゴキブリは判ったから先チャック閉めろ。」
「(後ろ向いてかちゃかちゃしめる)…だ、だって…やつが出たんだ…」
「わかったわかった。で、どこに出たの?」
「トイレ!中!」
「(覗き込んで)はー?いねぇじゃん」
「右!右の壁の下!」
「んー?…あ、ほんとだ、でっけぇー」
「早く退治してくれ!」
「……あんた、トイレの中に携帯と新聞もって入るなよ…邪魔…」
「あ、と、取ってくれ!頼む!」
「……はいはい。これな。死ねゴキー(スプレーしゅー←泡で固めるタイプです)」
「やった?やったか?」
「あ、逃げた」
「ええぇ!?どこに!?」
「奥…あー、もぅ、出てこいってー(新聞でばしばし)」
「は、鋼のは怖くないのか?」
「代わってくれんの?」
「い、いや、私は後方支援だから」
「……………し・ね………」
「た、退治!退治できたかね!?」
「ん、一応固めた…けど」
「けど、なんだ?(びくびく)」
「いや、ちゃんと窒息してるかなーと思って。生きてたら、泡取った瞬間こっち飛んでくるかも…」
「えええぇぇ!?と、飛んできたらこのドアを閉めるが良いかね!?」
「よかねぇよ!!」
「だ、だって怖いじゃないか…」
「………(なさけねぇ…)」
「はい、ティッシュでくるんだから、これ捨ててきてよ」
「え。」
「えってなんだ、えって!なんでてめぇが死にそうな声出すんだよ!ゴキブリ殺したのは俺だぞ!しかもティッシュにくるんでやったのに…!」
「だ、だってその中にはゴキブリがいるじゃないか!」
「後方支援じゃなかったのかてめぇは!袋入れてやるから袋もってこい!」
「袋に入っていても無理なものは無理だ!」
「開き直るなー!!」
「いやだ!こればかりは嫌だ!!」
「駄々っ子が…!!」
でもきっと優しいからエドたんが捨てに行ってくれるの。
「か、神田!!かんだー!!」
「………なんかあったかよ」
「や、やつが出ました!」
「…は?……アクマか!?」
「アクマじゃないですけど黒い悪魔です!助けてくださいー!!」
「…………………」
「はい!僕には無理です!神田じゃないと出来ません助けてください!」
「ま、まぁいいか…」
「神田ー!好きです!」
「知ってる。とっとと退治しにいくぞ。で、どこに出たんだ?」
「ぼくの部屋です!もしかしたらもう何処かに隠れちゃってるかも…」
「いなくなってたら良いじゃねぇか」
「よくありませんよ!どこかには居るんですよ!見えない敵のほうが恐ろしいじゃないですか!!」
「そんなもんか…?」
「そうです!だからもし退治できなかったら、今晩は神田の部屋に行って良いですか?(にっこり)」
「……………ああ。」
「わーい♪」
「……アレンくん、別にゴキブリとか平気な子よね。」
「んー、見事な手際だけど、策を練る辺りがまだまだ可愛いよね。僕ならストレートに泊まりに行って良い?くらい言うのに。ねー?リーバー班長」
『……………………………』
「誤解を招くからそこで俺に振らないでください………!」