birthday
カカ紅。捏造:なぜかアスマさんと紅が幼馴染で元カレ・元カノという間柄。(妄想)
年を一つ重ねたからといって、その瞬間何か変化があるわけではない。
それでもどうして、人は生まれてきた日を祝うのだろう。鏡台に座って、紅はそんなことをぼんやり考えていた。
三日前の夜、窓をたたかれて彼女は目を覚ました。
見ると、月夜に浮かび上がる影が一つ。紅が眠いのを我慢して窓をあけると、黒い布に身を包んだはたけカカシが、昼間何気なく会った時となんら変わらない手軽さで、「よぅ」と片手を上げた。
「よぅじゃないわよ。今何時だと思ってんの?」
夜風に当たって、眠っていた身体が肌寒い。
紅が毒吐きながらそっと両手を身体に添えると、カカシは、
「ちょっとあがるよ」
紅の肩をそっと押して、土足のまま部屋へ入った。窓を閉める。
「靴を脱ぎなさいこの馬鹿」
「はいはい」
こづかれるのを苦にもせず、カカシは靴を脱がない。
よく見れば、黒い布で覆われた下に暗部の制服を着ているようだった。
「で?こんな夜中に何?」
「いや、たいした用事じゃないんだけどね」
カカシはいつももったいぶってしゃべる。それは昔からそうで、紅はその口調と、口元が見えずにはっきりとしない表情をいつももどかしく思った。
幼馴染のアスマとは大違いだ。紅は、常にアスマとカカシを比較した。自分でもなぜそうするのかわからない。
「俺、しばらく任務で里出るから」
「それでいちいち報告に来たの?暗部なのに。」
「まー最後まで聞けって。で、任務で最低一週間は俺、帰って来ないから。」
さらっと言う。が、それ以上は言わない。
一週間。紅の誕生日は三日後。
紅は無表情に見返した。紅色の瞳が、カカシを捉える。
「そう。それで?」
この切り替えしにはカカシの方が多少なりとも驚いたようで。
「あー……いやまぁそれだけなんだけど…」
彼にしては珍しく、ばつが悪そうに頭をかいた。
「そう。じゃ、気をつけて。」
カカシを見送って、ベッドに入った後。
紅は妙に寝付けなくて、ふと去年の誕生日を思い出していた。
去年の誕生日。紅の18歳の誕生日。
例年通り、彼女の家にアスマと彼の家族が来て、盛大ではないものの、ささやかながらに祝った。
そして、夕食も食べ終え、アスマたちが帰宅した後、紅は里のはずれにある公園へ向かう。
これも、毎年のこと。ただし、紅の家族も、アスマも、知らないことだった。
季節は夏へと向かいながら、夜になると少し肌寒い。紅はノースリーブのまま外へ出たことを後悔しながら、ブランコに乗った。
足でかるく地を蹴って、ゆらゆらと揺れてみる。
「お、ぐーぜんだな、紅。」
声は突然、横からした。
毎年のこととは言え、突然何もなかったところから声がすると、たとえ聞きなれた声だとしても、驚く。
「カカシ、いい加減やめなよね、毎年毎年…」
両手をポケットに突っ込んだままブランコの上に立っている青年に彼女は嘆息した。
「毎年毎年、いいリアクションをするからなぁ、紅は。」
そのままひょいとブランコに座る。
「どーっだった?お誕生日会は。」
「例年通り。美味しいもの食べて、楽しくしゃべって、プレゼントもらって。」
「そりゃよかった。」
「…カカシも来ればいいのに。」
毎年言うセリフ。そして毎年カカシが笑って流す言葉。
「ガラじゃないしね。」
「そんなこといって凝り固まってるから変な友だちしか出来ないのよ。ガイとか。」
「いやぁ、ガイは友だちじゃないだろ。」
「ライバル?」
いや、もっと違うから、とカカシは否定した。
「そうそう。せっかく偶然あったんだし、なんかプレゼントあげるわ。」
「プレゼント?」
紅は眉をしかめた。
カカシは毎年、変なモノしかくれない。たとえば、この季節に珍しく紅葉している葉っぱとか、三つ又の大根だとか。
カカシは、ごそごそと懐から取り出し、はい、と紅に渡した。大きさは文庫本程度。というより明らかに何か書物のようだった。
月明かりに照らして、表紙を見てみると。
「なによこれッ!!」
思わず地面に投げつけたのを、カカシが素早く拾い上げる。
「何って…」
拾ったソレの土の粉を払い落としながら、彼はケロっと言った。
「イチャパラ(上)」
「いらんわぁぁぁぁ!!」
深夜だというにもかかわらず、紅はブランコから立ち上がり、その勢いにのって叫んだ。
「あーもー深夜なのに。」
カカシに言われて、紅は少し小さくなる。
「あ…その……とにかく、そんな本やめてよね。」
「あらら、結構面白いのに。しかも紅、18歳だし。」
「そういうあんたはまだ16歳でしょ。」
「あ、俺はいーの。だって俺、精神的に18歳越えてるから。」
へらへら手をふるカカシに紅は呆れてモノも言えない。
「もう…ほんとにプレゼントがソレなんだったら、私もう帰るからね。」
「だって紅、この前、何欲しい?って聞いたら大人っぽいもんって言ったじゃない。」
「言ったけど、こういう大人にはなりたくない。」
紅は少し語気を強めた。ブランコから歩き出す。カカシも後ろから付いてくるのが気配でわかった。
「どーこ行くのさ。」
「帰るのよ。カカシのプレゼントも見ちゃったし。」
「……しょーがないなぁ」
カカシが立ち止まる気配に、紅も気になって立ち止まった。
もうすでに二人は公園の出口まで来ている。
いつまでもしゃべり出さないカカシに、紅がしびれを切らして振り返った。
「……何よ、どうかし…」
言葉は、途中でかき消された。
カカシが紅の肩を引き寄せ、彼女の唇に口付けた。
「!!」
びっくりして、目を閉じるのも忘れて、紅は身体を硬直させた。決してはじめてのキスではなかったけれど、こんなにも衝撃的なものは生まれて初めてかもしれない。
唇が離れて、カカシは一言、紅の耳元で
「じゃこれが誕生日プレゼントってことで。」
それから、紅がはなったクナイを軽く受け、「お、記念に貰っとこうかな」とカカシはそのまま消えるようにいなくなって。
その場には、あっけにとられた紅が一人ぽつんと残されてしまった。
それから、カカシの態度が以前より変わった、ということは全く無かった。
いつもどおり、道で会ったら軽くよっという挨拶のみ。それから特にどうということもない。紅は18になり、しばらくしてアスマと付き合うことになり、三日後には19になる。
「19歳かぁ…」
誕生日、アスマは一日あけておいてくれるという。紅もたまたま任務が何もないため、一日中一緒にいられる。いつも誕生日当日は家族で祝うという半ば儀式的な習慣で育った紅にとって、彼氏という存在と誕生日を祝うということは初めてだった。
なのに、去年ほど、気分がのらない。
(どうしてだろう…)
紅は悶々と自問しながら、いつの間にか眠りに落ちていた。
誕生日は、楽しかった。アスマは紅に優しかったし、幼馴染なため、紅の好き嫌いを良く知っている。夕食のディナーコースも、その後のデートコースもよかった。でも、紅はなぜか外泊する気にはなれず、そのまま何もなく家へ帰った。
アスマには少し悪い気もしたが、生理で調子が悪いと適当に誤魔化した。
帰り道に、里のはずれにある公園を通った。入り口からそっと覗いたが、紅は頭を振って、家路を急いだ。
「よぅ」
誕生日を過ぎること五日。夜中に窓を叩かれて、紅は目を覚ました。
「久しぶり。」
そう言って、先週現れたのと同じ格好のカカシが片手をあげていた。
「久しぶり、じゃないわよ。こんな夜中に。」
「悪いねーお邪魔しまーす」
「ちょ、入っていいなんて一言も…また土足だし。」
ぶつぶついう紅に、今日は紅のベッドに座って、黙って靴を脱ぐカカシ。
少し驚いて、その姿を凝視していると、脱ぎ終えて顔を上げたカカシと目が合った。
「?何?」
「え、あ……カカシもたまには人の話聞くんだなーって思って…」
「失礼な。いっつもちゃんと聞いてるよ。返事しないけど。」
「返事しないと意味ないでしょーが。」
ぱこんとカカシの頭をたたく。たたいて、カカシの銀髪に触れて、その久しぶりの感触に紅はなぜだか緊張した。
手をすっと引く。
「あ、そうそう、これ、誕生日プレゼントね。」
言って、カカシは腰に下げていたひょうたんを差し出す。
「何ソレ…」
「波の国で買ってきたどぶろく。」
「あ、ありがと……」
紅はひょうたんを受け取りつつ、彼女が最近酒にはまっているという事実をなぜ彼が知っているのか思案した。アスマにすら言っていないなずなのに。
「あれ?好きなんでしょ?アルコールが。」
「……嫌いじゃないけど…」
なんで知ってんのよ、と聞いてみるが、カカシは、さてなんででしょーとそっぽを向いて誤魔化した。
「じゃ、俺、明日も任務だし行くわ。」
言って、ベッドから立ち上がる。靴を履いて、窓枠に片足をかけてから、カカシは肩越しに紅を見た。
「そういやこの前のクナイ、要る?」
「この前?」
「去年紅の誕生日に貰った、あの…」
紅の記憶がよみがえる。そういえば、彼女のクナイを一本、カカシが持っていった。
「いいわよ別に、一本くらい。」
「あ、そう?じゃ遠慮なくもらっとくよ。」
「でもあれ安物よ?切れないし。」紅が、蘇ってくる記憶に気恥ずかしさを覚えて、とっさにそうまくし立てると、カカシは珍しく優しく笑って、
「いやいーの。アレ、お守りだから。」
「……え?」
「なんてね。」
カカシは言って、そのまま屋根へ飛んだ。
「ちょ、何よそれ…」
紅が窓の外へ身を乗り出したときには、カカシの影はすでにはるか遠くへ行ってしまっていた。