月と遊戯 前編


子どものころの遊びは無邪気で際限がない。子どもはみんな快楽主義者なのかもしれない。楽しいことが好きで、楽しいことをどんどん追求する。ラインハルトもちょうどそういう時期で、キルヒアイスと色々な遊びを試す日々が続いた。それは二人が士官学校に入ってまだ半年目の、丁度定期試験の最中のことだった。
通常よりも早く学校の拘束から解かれたラインハルトとキルヒアイスは二人で公園へ向かった。そこで特に何をするわけでもなく、たわいない子どもの遊びをして時間は過ぎていった。バカみたいに走り回って汗をかいて、ラインハルトは日がおちていくのを草に座って眺めていた。ジュースを買いに行っていたキルヒアイスが二人分の缶を持ってこちらへ走ってくる。ラインハルトは短く礼をのべた。
「キルヒアイスはまたコーヒーか。」
カフェインばかり飲むのは身体に悪いぞ、などと大人ぶったラインハルトは手にもった苺ミルクの蓋をあけた。
「ラインハルトさまこそ、甘いお飲み物ばかりお召し上がりだと太られますよ?」
「俺は太らない。」
ふん、と少しだけ不機嫌なフリをしたラインハルトがそれを飲む。甘い砂糖が溶け込んだ液体がとろとろと食道を下っていく様を想像する。今日は生物学のテストだった。
「つまらなかったな。」
「簡単でしたね。」
「うん。」
何を、とは聞かないキルヒアイスがラインハルトは好きだ。何を言っても、的確な返答を返してくれる。まどろっこしい説明などいらない会話をすることに、ラインハルトは慣れきってしまっていた。
「それにあんな知識、なんの役に立つというのだ。もっと何か即決的な……人命救助の実践訓練の方がよっぽど役に立つ。」
「仕方ありませんよ。それにすべての学問は基礎が肝要だというじゃないですか。」
「基礎など本で読めばわかる!」
ラインハルトが言うと、キルヒアイスは苦笑した。あなたは頭がよろしいから、と。ラインハルトはむぅ、と黙り込んだ。
「ラインハルトさま、そういえばさきほどつまらない、とおっしゃいましたよね?」
「言った。何か面白いことはないものか……面白い遊びとか。」
テスト勉強などするだけ無駄だった、とぼやく金髪の少年に、キルヒアイスは言う。
「面白い遊びなら、存じ上げておりますよ。」
ラインハルトは隣に座るキルヒアイスを見返した。コーヒーを飲んでいる彼は、こちらと目があって優しく微笑んだ。
「面白い遊び…?」
「えぇ。今まで体験したことのない遊びです。」
「ほぉ……面白いのか?」
ラインハルトは身を乗り出した。クセのある金髪が夕方の風に揺れる。夕日に照らされた彼の頬は少し色づいて見えた。キルヒアイスはいつもどおりの優しい微笑のまま、頷いた。
「誰も教えてくれない遊びです。もっとも、これは本当は大人のための遊びなのですが…」
「大人が遊ぶものか。」
ラインハルトは即座に言った。しかし目の前にいる彼の幼馴染は、遊びますよたまには、と言った。燃えるような色の髪が西日に照らされていて眩しい。青い瞳が綺麗だと、ラインハルトは思った。誰も彼もがラインハルトの外見ばかり良くも悪しくも褒め称えているが、ラインハルトはキルヒアイスこそ整った顔立ちをしていると思う。肌の色だって自分より彼のほうがいいじゃないか。
「そうなのか…」
「そうですよ。試してみませんか?」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは少し戸惑ったが、うん、と頷いた。
「それで、どのような遊びなのだ?ここで、出来るのか?」
「ここは少し目立ちすぎますね…」
キルヒアイスは缶コーヒーを飲み干して立ち上がるとあたりを見渡した。西日の光は徐々に弱まって、反対側からは星の瞬きと月の光が追いかけてきている。国立公園は広大な敷地を有しているため、たくさんの人間が同じ場所にいるという事態にはなりにくい。が、キルヒアイスはそれでも、さらに奥の、森林を模したあたりを指差した。
「あちらへ行きましょうか。」
言って差し伸べられた手を握って、ラインハルトは立ち上がった。彼の手の中にはまだ苺ミルクの残った缶がある。彼はそれを手に持ったまま、
「あそこで、するのか?」
「恐いですか?」
「何が恐いものかッ!」
ムキになって反論したラインハルトに向かって笑って、キルヒアイスはそちらへ向かった。ラインハルトも仕方なくそれに続く。
「遊びというのはどのような遊びなのだ。鬼ごっこみたいな?」
「違いますよ。」
大人は鬼ごっこなんかしませんよ、と言われてラインハルトはそんなことはわかっている!と声を荒げる。
「とにかくわたくしに全てお任せください、ラインハルトさま。すぐに楽しくして差し上げますから。」
キルヒアイスはこれ以上のことは何も教えてくれなくて、ラインハルトは少しだけ不安になって空を仰いだ。木々は一歩進むたびに濃さを増していく。しばらくして月の光が届く場所へ来た。さきほどの場所からは離れていたが、そこだけ樹木の背が低いために街灯がなくとも相手の表情がはっきりと伺えた。
キルヒアイスが振り返ると不安そうなラインハルトの顔。その表情に彼は思わず吹き出してしまった。
「な、なぜ笑う!」
頬を染めてラインハルトが言う。キルヒアイスはこほん、と咳払い一つで笑いを押さえ込んだ。
「失礼いたしました、ラインハルトさま。あなたがあまりに可愛らしくて…」
「可愛らしい…??」
はじめてキルヒアイスから言われた言葉である。長い間ともに時間を過ごしてきたが、彼がラインハルトのことをこのように称したことは一度もなくて、容姿のことについてはせいぜいお綺麗ですね、とかその程度。可愛いなどと歯の浮くような表現をするなどとは全く予想もしていなくて、ラインハルトは首をかしげた。
「ラインハルトさま、缶ジュースをこちらへ。」
手をさしのべて、彼の手中にあった苺ミルクを取り上げたキルヒアイスはまだ困惑状態のラインハルトの頬を撫でた。
「な、なにを…」
「目を閉じて、じっとなさってください。」
お互いの鼻と鼻とかくっつきそうなほどに顔を寄せられてラインハルトは頬を染めた。間近で見ると本当に健康な色をした肌、大きな青い瞳。ラインハルトは目を完全には閉じないでうっすらと開いたまま、その隙間から成り行きを見ていると、唇に軟らかい感触がして慌てて目を閉じた。それがキルヒアイスの唇だと気づくのに数秒を要した。
「んッ…」
すぐにそこへの刺激はなくなった。ラインハルトは大きく目を開いて、どなってやろうかと息を思い切りすいこんだ。
「ッ……」
が、何か言葉にするまえに、キルヒアイスはまたその唇をラインハルトに押し付けた。今度は驚いたまま瞳を閉じることも忘れてラインハルトはうめき声を上げた。何がおこっているのかわらかない。苦しくて呼吸のために夢中で開いた唇の隙間から、キルヒアイスがあろうことか舌を侵入させてきたため、彼は逃げ場を探したが生憎すぐ後ろには大きな木の幹があって動けない。
キルヒアイスの舌がラインハルトの歯列を丁寧になぞって、その先にある幼い舌をみつけると、そこへねっとりと自身のものを絡めてきた。唾液に濡れたそれは弾力があって、怯えたようにぴくぴくと蠢いている。キルヒアイスは自分とそう変わらない大きさの幼馴染の身体を抱き締め、その手でクセのある髪を撫でた。
長いキスを味わって、そっと唇を話すと半ば放心状態のラインハルトが耳まで真っ赤にそめて口をぱくぱくしている。キルヒアイスは手持ちの苺ミルクを少しはなれたところへ置いてから、
「今のはキスですよ。」
「そ、それくらいわかる!」
ラインハルトは木の幹に背中を合わせてかろうじて立っていたが、これがなければ多分その場にへたりこんでいただろう。自分と二ヶ月しか年が変わらないハズなのにキルヒアイスはいつのまにこんなことをするようになったのだろう。ラインハルトは自分の息の荒さにも驚いた。どうしてこんなに動悸が速いだろう。身体が熱くて、今まで感じたことのない感触が身体に宿る。
「よかったですか?わたくしのキスは。」
「そんなの知らん!」
言ってラインハルトはそっぽを向いた。
「お前のいっていた遊びとはキスか!?」
「キスも含みますが、まだ違いますよ。」
「なッ…」
ラインハルトは目の前に立つ赤毛の少年を睨みつけた。が、彼に怯える様子はない。
「ほら、力を抜いてくださいね…」
キルヒアイスは言いながら、ラインハルトの制服に手をかけてラインハルトはまたも慌てた。わたわたとその手を上から握って、
「な、なにを…」
「大丈夫ですよ、とても楽しいことですから。」
キルヒアイスは優しい笑顔で言って、ラインハルトの手を力ずくで剥ぎ取った。力で負けるラインハルトが、幼馴染の手に爪をたてようとしたとき、キルヒアイスはそっと口元を金髪にうもれた白くて小さな耳に寄せた。ふう、と息を吹きかけてやると面白いほどに身体が跳ねる。その耳もとでキルヒアイスは囁いた。
「おとなしくなさってください。ね?」
ラインハルトは、優しいキルヒアイスの声に鳥肌をたてた。耳もとで聞こえるというだけでこんなにも別のものに感じるなんて反則だ。キルヒアイスはそっと舌を伸ばして耳の穴にそれを挿入した。
「ひぃッ…」
「可愛いですね。」
上着のファスナーをおろして脱がせ、シャツのボタンを丁寧に外しながら、キルヒアイスは露わになった白い首筋に浮ぶ汗を舌ですくった。塩っぽい味がする。月明かりに照らされたそこに、キルヒアイスは吸い付いて真っ赤で小さい痕を幾つも残した。吸い付くたびに小さい悲鳴をあげて身体を震わすラインハルトは自分の、初めて聞く甲高い声に動揺をかくせない。
「ぁっ、あっ…」
なんだこの声は、と胸中で自問しても、それを我慢する方法がわからなくて胸のもやもやは増大した。そして体温は上昇するばかり。
キルヒアイスはシャツを大きくはだけさせて、そのまだ汚れていないピンク色の胸の突起を指の腹で優しく撫でた。こり、と埋もれていたそこが少しだけ顔を覗かせる。キルヒアイスはそこを指先で摘まみながら鎖骨に軽く歯を立てた。
「ぁ、ぁんっ」
恥ずかしそうに声をあげて、ラインハルトは耳まで真っ赤に染めると自らの両手を口に咥えた。歯でその指を噛んで声を殺そうとする。
キルヒアイスは、指で弄んでいたところを口に含んで力をいれた硬い舌でころころと弄んでから、かりっと歯を立てて噛み付いた。上からくぐもった声がして、目線だけでラインハルトを見る。苦しげに自分の指に噛み付いている金髪の少年は、蒼氷色の瞳をうるませていた。容赦なく噛んでいるのが痛いのか、羞恥心に身もだえしているのか、滅多なことでは泣かない彼の泣き顔は、キルヒアイスの嗜虐心を煽った。いつも自らが正しいと信じてやまない、プライドの高い少年が自分の手で泣いているのを見るのは心が痛むがそれ以上に新鮮で今は止める気にはなれない。
「ラインハルトさまのここは飴玉みたいに可愛らしいですね…食べてしまいたいくらいです。」
真剣に言って今度は反対の突起を咥えると本当に噛み千切られると思ったのか、ラインハルトはやめろ、と叫ぶ。
「響きますよ。」
冷たい声音が出たことにはキルヒアイス自身も少しだけ驚いたが、それよりも言われた相手の方が衝撃は大きかったようで。ラインハルトは歯型のついた指をまた咥えた。
キルヒアイスはそれを敢えて止めようとはせずに、乳首に舌で刺激を与えながら、ラインハルトのベルトに手をかけた。かちゃくかちゃ、とわざと音をたてると、その脚を動かして逃げようとラインハルトは動いた。拒む動きがぎこちない。
「ひやッ…いやだ…もうやめ……は、恥ずかしい…」
乳首を舐められて、優しく噛みつかれて、ラインハルトは与えられる刺激に必死にたえていた。明らかにズボンの中が苦しくて、具体的に何がおこっているのかはわからないがそれがすごく恥ずかしいことだという認識はあった。ラインハルトは性に対する知識が全くないから、その下半身を熱くする刺激を快楽と呼ぶなどということは知らない。わからない。だから彼にとってそれは恐怖すべき以外の何ものでもなかった。恐い、それなのに下半身が気だるいほど熱い。自分の性器がどくどくと痙攣していておかしいのはわかったけれど、どうすればいいのかわからない。こんな異常な様を、見られるなんてもってのほかだ。だから脚を動かして逃げようとするが、動けば動くほど、性器を覆う下着の布がこすれてこれがまた変な気持ちを煽った。くねくねと腰を動かしたくなるような、妙な気持ち。ラインハルトはもがいて、自分の性器から何かどろりと漏れ出したのを感じた。それはちょうど、キルヒイスの手が、ズボンの上からラインハルトの股間をやさしく撫でたときだった。
「ぁあ…」
絶えられなくなって指の隙間から間の抜けた声をあげる。キルヒアイスはズボンの上から明らかに硬いそこを包み込んだ。
「ぁッ……さ、触るなぁ…」
鼻から抜けるような声。ラインハルトはその場にへなへなと崩れ落ちそうになった。自らの歯で皮を傷つけた両手で木の幹をつかんで必死になって姿勢を維持する。
「ラインハルトさま……勃起してらっしゃいますね。」
「ぼ……っき?」
「気持ちがよろしくて、おちんちんが硬くなってしまうことですよ。」
敬愛していた幼馴染の口から、もう幼児でもないその口から、おちんちんなどと言われてラインハルトは赤面した。
「お、俺は……こんなの気持ちよくなんか…」
「そうですか?目がとろんとなさって…とても気持ち良さそうですが。」
キルヒアイスは言って、唇に微笑を湛えた。月光に照らされたその笑顔は、ラインハルトのいつも見ていたものではなくて彼の背筋に寒気が走った。
「もっともっと、気持ちよくしてさしあげます。」
キルヒアイスは言って、ラインハルトの黒いズボンを下着と一緒に勢いよく下ろした。ずる、と布がこすれる刺激に、ラインハルトは天を仰いで喘いだ。
「ひやあぁんッ!」
「こんなにぱんぱんに腫らして……」
キルヒアイスはしゃがんで、その幼い性器をまじまじと見つめた。ピンクをしたそれはキルヒアイス自身のそれよりも幼くて、その先端からぬらりとした液体を零して、月明かりに光っていた。
「綺麗なお汁が零れておいでですよ。」
「っ……ち、違うッ…」
ラインハルトは叫んだ。キルヒアイスがしゃべるたびにその熱い吐息が冷えた性器にかかって、ますます熱くなる。見られている、という意識を強めてしまう。
「何がですか?」
キルヒアイスは冷静な声音で言った。
「違う……俺は、漏らしてなんか…」
「ラインハルトさま…」
キルヒアイスは低く言って、ラインハルトの性器を手で直接にぎった。
「ぁあんっ…」
甘い声と、くちゅ、くちゅ、という濡れた音。キルヒアイスはわざと水音をたてて、ラインハルトの猛ったそこを上下に擦った。
「これはラインハルトさまの尿ではございませんよ?」
「ひゃッ、あぁんっ…じゃ、じゃあ……な、なんだとい…うのだッ…」
「気持ちいいときに出てくる液体ですよ。」
キルヒアイスは言って、ラインハルトの反論を待たずにその濡れた性器に舌を這わせると、そこを覆っている皮を口で丁寧に剥いてやる。ラインハルトは自慰の経験もないらしい。
キルヒアイスの行動に何がなんだかわからないラインハルトは、その押し寄せてくる感情に震えた。
「ぁあっ、な、何をしているッ…!?いやぁあんっ、あ、あそこがッ……あそこかゆぃっ…」
キルヒアイスは皮を綺麗に抜いてやると、先端からますます濡れてくるそこを口に含んだ。すっぽりと、キルヒアイスの温かな口内に収められたラインハルトの中心はぴくぴくと痙攣し、さらに質量をます。彼はいとおしげに舌をからめた。口をすぼめて、中を吸い上げるように刺激をあたえてやると、びくんっと大きく跳ねるような動きをした。
「ぁっ…ひぁあ、な、なんかくるッ……あ、ッも、ダメっ…ひぁああぁあんッ!」
一際大きな嬌声とともに、ラインハルトはキルヒアイスの喉の奥ににあっけなく射精してしまった。