何度か来た事のあるのれんをくぐり、いらっしゃいませーと威勢の良い声に迎えられ、ほのかにニンニク臭い狭い店内、入り口のカウンターは既に満杯、案内される程でもないので三つ並んだテーブルの、人のいなかった真ん中に勝手に座る。壁に貼られた何種類ものラーメンの文字を見ながら、なんとなく胃が重たい物をうけつけないのを感じてロイは腹部をさする。
そんな彼を尻目に、エルリック兄弟2人は仲良きかな、そんな食欲のないロイの隣でぎゃあぎゃあと、わかめが良い・チャーシューが食べたい・やっぱ赤みそ、挙げ句の果てにはチャーシュー丼でセットにするだの!聞いているだけで腹がふくれそうな会話を楽しそうに。内心少しげんなりしながら、水を持ってきた店員にクーポンを手渡す。
ご注文は?と言われ必死でメニューを凝視していたエドワード、先程までのアルフォンスとの議論は何だったのか、思い切りよく、
「キムチラーメンにミニチャーシュー丼、ラーメン大盛りでー」
「兄さん、キムチなんて一言も言ってなかったよね…?」
「今食べたくなったの!今!」
ぷぅと口を尖らせるエドワード。アルフォンスは僕赤みそ、トッピングコーンでお願いしますと店員に言うと、マスタングさんはどうします?と笑顔で。あー…と改めてメニューを見るロイ、早くしろよとエドワードの視線が痛い。
「じゃあ…ラーメンで」
「にんにくはどうされますか?」
「いや…」
いらないですと言いかけて、エドワードが三つともお願いします、と声をかぶせる。完全に意見が潰された形でロイは思わず憮然とした。
「あっれ、ロイ、にんにくいらんかった?」
「………うん」
たかがラーメン一杯で文句を言うのは大人げないと思いながら、素直に頷く。
「あー、ごめんごめん、やっぱいらないっていう?」
「いや別にいいよ」
嫌な言い方になってしまうかな、と言う心配は杞憂だったらしい、エドワードは良いなら良いやとアルフォンスに向き直り、合宿どうだった?とロイはすっかり話題の外側に。
一週間ぶりの再会、話題が尽きる様子はない2人にロイは不毛な嫉妬を感じつつも、2人が笑っているのはとても良い事だと思う。エドワードは勿論好きだが、アルフォンスも大事に思っているのは本当で、その気になれば口八丁、エドワードを丸め込んで、アルフォンスくらい煙に巻く事だって出来るのだ。(怖くて試した事はないが。)それでも、エドワードが3人でご飯を食べたいならそれに付き合っても良いと思う。
運ばれてきたラーメンの、綺麗な薄茶のスープ立ち上る湯気に混じる強烈なにんにく臭に思わず眉をしかめながら、心の中では寛大寛容をモットーに。
「いただきまーす!」
「にんにく…」
嬉しそうに箸を割るエドワード、手を合わせるアルフォンス、ロイはスープにとけ込んだにんにくをどうにかして分離できないかと、くるくるとレンゲで麺とモヤシを絡める。美味しいのは知っているが、食欲がないのは事実だし何より臭いが。普段はあまり気にしないロイだが、この後色々と…と考えているときにこれは。
「マスタングさん、にんにくお嫌いですか?」
上品な顔で嬉しそうに豪快にラーメンをすするアルフォンス、あまり食の進まないロイに箸を止めて尋ねる。肝心のロイの恋人は、ラーメンに夢中でそんな様子に気付いても居ない。アルフォンスの言葉に初めて顔を上げて、え、ロイにんにく嫌いなの?と。
「嫌いではないけど、臭いが…」
「ブレスケア持ってますよ」
にっこり笑ってアルフォンス、おまえ用意良いなー!とエドワードは感心している。エチケットだよと応えるアルフォンスの笑顔に隙はない。もしかして全部判っていって居るんじゃないかとロイは妙に勘ぐる。
「そういう問題でなくてはね…」
「大丈夫だって、自分の臭いってあんまり分かんないっていうじゃん」
「そう言う問題でもなくてだね…」
俺はロイがにんにく臭くても気にしねぇよ?とエドワードなりのフォローに一応感謝し、冷めるのももったいないしまぁ良いかと開き直ってラーメンをすすった。