永遠とかそういう言葉を信じるなんて馬鹿げてると、かつての親友に話したことがある。
それでも、彼にそう口走ったのは多分、



久しぶりの司令部は以前と特に変わりなく、目の前にうずたかく積み上げられた書類にさえ意識を向けなければいたって平和だった。
鋼のはこれでもかというくらい中尉や他の面々に謝り倒し、怒涛の勢いですぐにここを旅立ってしまった。まさに嵐。あれほど堕落した、俗世から遮断された生活を送っていた人間だとは思えない。対して抜けきらない四肢のだるさに未だに頭がぼんやりしたままの私は自覚したくもない二十代ぎりぎり三十路手前の自己の年齢を思い知らされる。
「コーヒーを。」
聞きなれた声にメモ帳に落書きしていた手を止めて垂れていた頭をあげると、そこには美人と有能で名高い副官の姿。手にはトレイにのった湯気立つカップ。とりあえず私は短く礼の言葉を述べてその好意を受け取った。
「……すまなかった。」
「そうですね。」
「何が、とは聞かんのかね。」
「必要ないでしょう。」
副官は、その化粧っけのない唇をほとんど動かすことなく静かに述べた。
「それよりも早くサインをお願いしますね。サインさえしていただければもう読まずとも結構ですから。」
「え、そ、そうかね…。」
普段真面目な彼女がそんな言葉を言うとは予想していなかったので少し驚いた。が、なるほど確かに、と私は納得した。
花火大会、トイレ清掃強化週間、そんな文字が目について嘆息した。軍国主義国家がこんなんで大丈夫なのかと思わずうめきそうになる。もっと有意義なイベントはないものか。
「なぁ中尉。」
「はい。」
「鋼のはもう列車に乗ったかなぁ。」
「とっくに乗ったんじゃないですか?」
「今度はどこへ行ったんだろうなぁ。」
「さぁ?」
それこそ気のない返事の中尉に私はしかしがっかりすることももはやない。短く嘆息を漏らして、ペンだこのない指でくるくる回しながら、小さい金髪の後姿を思い出す。
私が彼のことを思い出す最初のビジョンはいつもきまって彼の小さい背中だった。それが短い脚を高速で動かして真っ赤なコートの裾がはためいて、一瞬立ち止まったけれどそれは私を振り返ってはくれなくて。
「早くこいよ」
遠く聞こえる少年の声。わかってるよ、と私も強情にも走ることは絶対にしないでゆっくりその背を追いかけてその気配でまた脚を速める少年に苦笑してしまう。
それが脳裏に描いた妄想だったことに気づいたのは、目の前の中尉がものすごい形相で私のことを見ていたからだった。
「鋼のは可愛いね、中尉。」
返事の変わりにため息をついた彼女は軍服のポケットから小さい封筒を取り出して私に差し出した。
「本当は一週間ほどしてから渡して欲しいと頼まれていたのですが。」
宛名だけが真ん中に書いてあるその、みみずの張ったような筆記体。驚いて、その手紙を受け取って中尉に礼を言う。
「お仕事はきちんと、なさってくださいね?」
そう言った彼女は穏やかに笑ってその部屋を出た。

「迷惑かけてごめん。」
月並みな言葉でいう鋼のの頬を思い切り叩いた。
初めて、殴ったかもしれない。小さい身体は私の予想していたほど軽くはなくて、その場にどうにか踏みとどまった。
「反省した?」
父親でもないし、偉そうな説教をしたくもないし、私はとりあえずそういった。
鋼のは金色の目を伏せてこくこく頷いた後、その短い腕を私にまわしてきた。
鍛えられた筋肉は硬くて、かつて抱いていた女性のものとは全く違って。
愛おしい、鋼のの身体を抱き返すと、ごめんなさい、という小さい言葉が返ってきた。

手紙の内容はあのことには全くふれていなかった。
多分、あんな上体になる前に書いたのだろう。手紙は彼らの旅のどうでもいい部分がコト細やかに書かれていた。重要な堅苦しいことは報告書にあるから、そこから抜け落ちた、どこかの駅の駅弁がウマイとか、あの地域の列車は時刻表に誤植があるとか、どこかの店で食べたドーナツがまずいそか、そういう類の、15歳らしい言葉が便箋五枚分。よくもなぁこれだけ書けるなぁと思って裏返してみると、そこには何かの図が書いてあった。なんだろう、とその下にある一文を読んで笑った。
「鋼のは………なんだこの絵は……」

下手くそな図は彼曰く風景画で。
私は自分が先ほどまで落書きしていたメモ帳と見比べた。
私の方が、多少マシではないか。
ンなことねぇよ、お前のほうが下手くそだ。
そんなことばが聞こえてきそうな気がする私は重症だな、と。
いい加減そう思わなくも無かった。