ブログ4/27収録。(ハボアイ)
普段冷静な人物ほど、一旦キレたときは収拾がつかないというのは真理だ。少なくとも、ハボックの周りでは。ちなみに、ハボック自身は、自分だけはそれに当てはまらないと思っていた。
自分以外の――上司である(普段は心底やる気がないが、やるときはやるとハボックとしてもそれなりに信じている)ロイマスタングを筆頭に、フュリーは普段真面目な分許容量を超えると大佐すら沈黙させる黒いオーラを噴出するし、ファルマンはパニくると暴走して手に負えない。
同僚で、自分と同じく普段は冷めた雰囲気のブレダも、犬を前にしてはテンションが上がる(悪い意味で)。
勿論それは東方司令部一の美人と目されるホークアイ中尉も例外ではなくて、無茶をする司令官のストッパーとして働くはずの麗しき司令官補佐は、たまに、ほんのたまに暴走することがある。
ハボック自身もその目で見たことはない。
東方司令部内ゴシップ専門の諜報員たち(要は食堂のおばちゃん)の噂でそんな事があったらしいと言う事を耳にするか、執務室の壁越しにその銃声――まさか執務室の中で発砲が行われるはずはないから、限りなく銃声に近い音だとしておこう――らしき音を聞いたことがあるくらい。
だからまさか、同僚のブレダと共に、頼まれていた書類を提出しに行ったときに、それを目の当たりにするとは思わなかった。
しかも、その光景は、彼が聞いた噂―サボっている上司に笑顔で威嚇射撃をするホークアイ中尉―とは違っていて、ハボックは己の間の悪さを呪いながら、むしろそのほうがいくらか笑い話に出来たのに、と思った。ブレダも同じように、困った顔でそれを見ている。
それ。
ホークアイ中尉、我らが誇る美麗且つ冷静な上司は、その大きな鳶色の瞳と鼻を真っ赤にして、部下の登場に明らかに動揺していた。
ノックをしたのに気付かなかったか、気付いても有能な司令官補佐の顔を作る暇がなかったのか、どちらにせよ彼女らしくない。
肌が白い分、顔の中央が赤いのが目立って、しかも涙を堪えていたらしい瞳はどうしようもなく潤んで、マスカラが薄く滲んで、眼の下にうっすらとクマを作っていた。
それが逆にものすごく艶やかで、思わずハボックは唾を飲み込んだ。
当の、彼女にそんな表情をさせていた原因(確定)であるロイマスタングは、これまたハボック達と同じように少しバツの悪そうな、拗ねたような顔で肘をついて明後日の方向を見ている。
ハボックはそれを見て少しだけ溜飲が下がった気がした。
彼女にこんな顔をさせておいて、もしこの上官がいつものように澄ました顔をしていたら、多分自分は胸ぐらを掴みに行っていた――ああ、やっぱり俺も類友か、と胸中ため息を吐く。女の泣き顔一つで上司に喧嘩を売ろうと考えるなんて。
「失礼します」
と、声だけは普段通りに、ホークアイ中尉は言った。敬礼をして、まだ何か言いたげな上司と困惑した部下を残して彼女が去った後、ハボックとブレダも書類を置いて、逃げるようにその部屋を出た。
やっぱり普段冷静な人間ほど質が悪いと、ご苦労と言いながら部下を一瞥した上官の顔を思い浮かべた。
続きまふ。