後日談。
つくづくこれは、自分に対する侮辱ではないのかと思う。フロイラインマリーンドルフにしても、ミッタマイヤーにしてもロイエンタールにしてもミュラーにしても、ああ最近ではキスリングも、みんなそうだ。帝国の宿将2人にしてこの誤謬、この点を一番理解しているのは悔しいながらオーベルシュタインだけではないか。結局そうだ、結局この結論に辿り着く。
自分を理解し得た人間は今までキルヒアイスしか居なかった!
そんな自分の半身を失って悲しまない人間がいるだろうか、どんなに他人の心の機微に鈍重なかつての貴族共でさえ、自分の身内はあんなに可愛がっただろう。それに比べれば人並みの感性を持った自分が、半身の死を悼むのは当然のことだ、何ら不思議ではない。
「それなのに、それなのに、だ」
ラインハルトの言葉に、普段の覇気も熱もない。真っ白で陶器のような滑らかな指がシーツをまさぐって出来た波に、敢え無く吸い込まれていく程無力。けれど、その言葉を発している金髪の皇帝は、自分の言葉が誰にも聞かれることなく零れて消えていくことを望んではいないから、ロイエンタールは根気よく相槌を打つ。金髪の髪の毛を梳いて、優しく途切れた言葉の先を促す。これは特権だと、信じて疑わない。
「みんなみんな、予を可哀想な目で見る。予には解るんだ、アレは親友を失ったとかそういう類の同情の目じゃないんだ、予を可哀想だと思っている目なんだ」
言葉が途切れて、泣くのかな、とロイエンタールは思ったが、ラインハルトの独白はあくまで淡々と続いた。どうしてそんな、独り言が途切れず語れるのだろう、そこが彼の凄いところか、とロイエンタールは妙なところで感心している自分に気付く。きっと彼の頭の中は、自分のような凡人では理解できない物質が一杯詰まっていて、それがグルグル間断なく頭を駆けめぐって、凡人では想像も付かないような事を(例えばそれは戦場における作戦であったり、日常生活における突飛もない行動であったりする)生み出すのだろう。
「みんな予を可哀想だと思っているんだ、予は確かに、キルヒアイス以外に自分を理解できるとは思わないし理解して貰おうとは思わないけど、それは断じて普通のことなんだ。だって彼は、予の大事な大事な人だったんだ。彼を忘れるなんて出来ないし、決してそんなことしてはいけないし、それは当たり前の事じゃないか。なのにみんな、予をおかしいという。フロイラインマリーンドルフはいつも予を心配そうに一歩距離を取っているし、キスリングは予が何か言うたびに変な気を回すし、それが影響してか最近エミールまでおかしい、キルヒアイス提督とはどんなお人だったのですか、ときた。……予が気付いていないとでも思っているのか。甚だ失礼だ。思わないかロイエンタール」
長い独白の終わりに、初めて皇帝は隣にいる裸の男に同意を求めた。金銀妖瞳を持つ帝国一の美丈夫は、そうですね、と優しく呟く。その答えに満足して、ラインハルトが今度こそその蒼氷瞳を長い睫毛で覆って瞑った後、ロイエンタールは苦笑して息を吐いた。
そんな話を私にする程の異常さに、早く気付いて頂きたい。