3
掌にボディソープを垂らして、ロイエンタールはラインハルトの首筋に手を伸ばした。丁度後ろから包み込む姿勢で座る二人の距離はほとんどない。背をかがめたロイエンタールの息が、ラインハルトの耳に直接かかって、彼のそこはのぼせた様に真っ赤だ。
「可愛いですね、閣下。」
唇が触れ合いそうなほどの距離でそう言うと、ロイエンタールは滑った両手でラインハルトの胸を撫でた。豪奢な金髪はすでに洗いあがっていて、顔をうずめるとトリートメントの香り。ロイエンタールは掌で最初はただ撫でるように、そして段々指先に力を入れてラインハルトの胸の突起を弄んだ。そこはされるがままにこりこりと硬くなって色づいてくる。曇り止めされた目の前の鏡で、ロイエンタールはその様子を克明に見ることが出来た。頬を染めて、顔を背けるラインハルトの表情も。
ロイエンタールは掌で腰周りを丹念に洗って、それから内太股に手を伸ばした。ランハルトの腰が逃げるような動きを見せる。ロイエンタールは左手でそれを支えるようにして止めた。自分の身体をラインハルトの滑らかな背中に密着させて、さらに手をラインハルトの股間へ潜り込ませる。
「ぁッ……」
既に湿っていたそこを探られたラインハルトは思わず声をあげてしまい、その声のなさけなさにまた赤面した。風呂場だからその声は余計に耳につく。ラインハルトは両手で自らの口を塞いだ。
「もうこんなにしてらしたんですか?」
言われていっそう硬さと質量を増すそこをロイエンタールはボディーソープの手で包んだ。ラインハルトの耳たぶに軽い口付けを落としてから、
「綺麗にしてさしあげますね。ここは、とても大事なところですから。」
上下に激しく擦りあげる。ラインハルトはじたばたと足をたたきつけた。浴室に大きな音が響く。
「閣下、そんなに暴れられては困ります。」
冷静なロイエンタールはラインハルトの亀頭に軽く爪を立てた。瞬間、びくんッという大きな血脈。そして抑えきれないラインハルトの喘ぎ声が指と指の間からかすかに漏れた。
「んッ……ぁあ…」
「大丈夫ですか?ほら……力を抜いてください。」
「い、嫌だ……ッあ、あぁっ…!!」
ラインハルトは小さく悲鳴のような声を上げて、白濁をロイエンタールの掌に吐き出した。
「はぁ…はぁ……」
射精後の疲労感で脱力したラインハルトが体重を後ろにいるロイエンタールに預けた。しかしロイエンタールは前に添えた手をさらに伸ばしてラインハルトを驚かせた。びくんと跳ねる身体。精液で濡れた指の腹で、ロイエンタールはラインハルトの後孔をくにくにと押さえつけていた。
「なっ……や、いやだっ、触るなッ!!」
本気で抵抗するラインハルトの身体を彼は抱え込むようにして固定した。固定されて、密着して、背後に当たる硬いもの。ラインハルトは「あっ」と小さく悲鳴をあげた。
「だめですよ、まだ。閣下だけが気持ちよくなるなんて……私もぜひおこぼれを頂戴したい。」
「ならぬっならぬ!」
耳もとで言われてラインハルトはまた頬を染めながら金髪を振り乱すほどに頭を振った。何度聞いても、彼のこの声には弱かった。そして、ラインハルトがその声に弱いことを、ロイエンタール自身も心得ている。
「意地悪な方だ…」
彼はわざとらしく言いながらラインハルトの肛門に精液を塗りたくった。それを潤滑油にして指先をそっと、挿入する。
「あっ……あぁっ…」
「可愛らしいお声ですね。」
低いが冷たさのないロイエンタールの声にラインハルトは鳥肌をたてた。脳が沸騰するかもしれないと、そんな気がした。自然、身体に力が入る。が、ロイエンタールは中で指を動かしながらその朱に染まった首筋を優しく舐めて吸い付いた。全身を包み込む温かい快感にラインハルトが喘いだ瞬間に増やされる指。ばらばらに動かされるそれらに、全神経が翻弄される。軟らかくはないラインハルトの内壁を傷つけない程度の刺激が間断なく与えられて彼は足先にまで力を入れてそれに耐えた。
そのせいで指を、ロイエンタールは締め付けられて苦笑する。彼の上官の中は温かくて、言葉でも身体でもロイエンタールを受け入れることを拒否していたが、それでも彼には自分を許容させる自信があったから優しい口調で言った。
「そんなに締め付けないで下さい。後で辛いのは閣下ですよ?」
指はすでに三本入っていて、優しく中をひっかきまわされる快感にラインハルトは甲高く喘いだ。ロイエンタールはしかしその指をいっきに引き抜き、身体ごと驚いたラインハルトの唇にそれを無理やりねじ込んだ。怯えて逃げる舌を指先で摘まんで捕まえて、ロイエンタールは耳元で囁いた。
「そろそろいいでしょう?」
「ひゃっ…ふぁふぁ…?」
舌を摘まれてうまくしゃべれない彼は唇の端から唾液を零しながら不安そうな顔。蒼氷色の瞳は大きく左右に揺れて零れてしまいそうなほどだった。ロイエンタールは微笑んで唇から指を引き抜き、ラインハルトを軽く持ち上げて立ち上がらせた。思わずよろけて前のめりになった彼は壁に手をついて自身の身体を支えた。ロイエンタールは身長の割には細く白い腰に両手をあてて、精液と先走りで濡れてひくつく穴に自身の猛ったものの先端をあてがった。
「ひぃっ!?」
びくんっと背中が跳ねる。ラインハルトが驚いて逃げ出そうとするが力ではわずかにロイエンタールに軍配があがったようだ。先端の部分をめりこませる感覚。ラインハルトは自分の中に侵入している異物感に喘いだ。身体が自然に押し返そうするのに逆らって、ロイエンタールは無理やりではなくゆっくりと、熱い塊をうずめていく。
「ぁっ……あひぃっ、い、いだっ……痛ぃ…」
「痛くはないでしょう?」
見透かしたような物言い。確かに、痛みは無かった。ラインハルトにあるのは苦痛ではなくて圧迫感。自分の肛門が今まさに犯されているという痛烈なほどの感触。腸壁からめぎめぎという音が聞こえてきそうな気がして、ラインハルトは目を瞑った。目頭が熱い。
「で、でもっ…でも……」
ラインハルトは必死に言葉を捜した。言葉と一緒に唾液が零れてくる。下半身が熱を持ったように熱くてそこだけが自分の意思とは無関係に動いているような、そうだったらどれほど気が楽だろうと思った。しかし、そんなことがあるはずがない。それは、まぎれもなく自分の身体。
「でも?」
ロイエンタールが聞き返してくる。彼の声もいつものように平静ではいられないようだった。少しだけ、ほんの少しだけ上ずっていて熱っぽい声。ラインハルトはそれを聞いてますます平静ではいられなくなった。恥ずかしい、と思う。彼にはこの方面に対する免疫がいまだにない。
「でも……い、痛くはないが、あぁっ…ん…け、卿のはっ……お、ぉ……」
免疫がないから、彼は無意識的に刺激の強い言葉を口にしたりした。知識のなさゆえにかもしれないし、それこそ子どもっぽい無神経さがなせる業かもしれない。ラインハルトはそれでも多少は小声で続けた。
「ぉっきい…」
「っ…………。」
観念したようなラインハルトの表情は曇り止めの鏡越しからロイエンタールに筒抜けで、その表情から吐き出されたその言葉に、彼には似合わず乱暴に、体の奥の奥まで突き上げてしまいたい衝動に駆られたがなんとかぎりぎりで踏みとどまった。
「閣下……そのようなことをいわれてしまっては……。」
ロイエンタールのものが彼の言葉で硬さと質量を増す。ラインハルトも気づいたのだろう、え、と小さく声をあげる頃には、既にロイエンタールが動きますよ?と宣言していた。
「ぁっ、あっ、あぁんっ……」
熱い塊で内壁をこすり上げられる感覚、自分の知らない奥の軟らかい部分を抉り取られる感触、そして、突き上げられる衝動。すべてが、ラインハルトの羞恥心を呼び起こした。理性ある自分が自分を罵る声がする。いや、嘲り?それとも嫌悪感か。とにかくたくさんの声が聞こえて三半規管が悲鳴を上げていた。
ラインハルトは、しかしどうでもできなかった。ロイエンタールの熱い肉棒が一番奥に当たって、思わず女のような気持ち悪い――と彼自身は思っている声を出して、そこから何かが瓦解した。
理性が飛んだわけではないけれど、これからは逃げられないと、そう感じた。
「あっ、ひやぁあんっ!」
ロイエンタールにもその変化はすぐに感知できた。あきらかに、声の大きさが違う。そこを最初はゆっくりと突き上げ、抉り取るように攻め立てると、鏡に見える彫刻のように美しい顔が欲に侵食されていくのが見て取れた。普段はするどい双眸が溶け出してしまいそうなほど揺れ動いて、癖のある豪奢な髪は汗で肌にはりつき、頬は唇と同じ色まで染め上がって、開かれた口から零れる唾液と熱い吐息と快楽の喘ぎ声。
彼は突き上げながら、腰を掴んでいた手をそっと、ラインハルトの前にのばした。腹につきそうなほどに勃起させて既に先走りでぬるぬるだったそこに触れられると、一瞬金髪が大きく揺れて、力の抜けた、泣き声のような声が浴室に響いた。
「あぁ…っ」
「申し訳ありません、閣下。こちらが……おろそかになっていたようで。」
ロイエンタールは言うと、その熱く猛ったものを優しくしごき始めた。根元から搾り出すようにされて、いやらしい水音があたりに響く。
前を握られ愛撫される音と、後ろを出し入れされる音。
「ひっ、ぁッ……ぁあんっ…も、だめっ……ろ、ろぃ…ロイエンタール…」
「っ…私もです、閣下……イきましょうか、一緒に…」
彼は言うと、腰の動きを一層速めた。玩具のようにラインハルトの白い身体が揺すられて、眉間をよせて苦しげな表情を浮かべる。
「ひぃやっ、あっ…そ、そんな激し、くっ…だめっ、イク…イっちゃ………ひやぁあんッ!!」
先に達したのはラインハルトで、ロイエンタールの掌と、自身の腹を精液で汚した。射精の影響での強烈な締め付けに、ロイエンタールがその両眼を少しだけ細めた。
「っく…」
短くそれだけ言って彼は、ラインハルトの一番奥に熱い白濁を吐き出した。
風呂からあがって、ぐったりしているラインハルトをロイエンタールはかかえて自室へ向かった。朦朧とした意識でラインハルトが連絡をいれねば、という。キルヒアイスに連絡をいれねば…。
ロイエンタールはすっかり忘れていた彼の親友を思い出して、こっそり舌打ち。このままベッドで一緒に朝を迎えようと思っていたのにいくらなんでもそれは不味いだろうということで、ラインハルトの携帯からキルヒアイスに連絡をいれて、こちらまで来てもらうことにした。泥酔したラインハルトが謝って噴水に落ちたのを助けて風邪をひかぬよう自宅にお連れ申し上げたと言った。泥酔していたかは別として彼自らが噴水に飛び込んだのだからこれは嘘とはいえまい、とロイエンタールなどは思っている。嘘はついていないが、ただ全てをキルヒアイスに話す必要もない、と。
服を乾燥させて、コーヒーを飲ませてラインハルトにこれを与えると、彼は寝ぼけたそれを一口含んでその美しい瞳を見開いた。げはっ、がはっと喉の奥からむせかえる。
「に、苦ッ……」
「お目覚めですか?」
「苦い。」
舌を出して目の前にいる黒髪の男を睨みつける。
睨まれたロイエンタールは肩を小さくすくめて見せるだけだった。
乾いた軍服を使用人が持ってきて、暖炉の部屋でそれに着替えたラインハルトは、飲みかけのコーヒーに砂糖をいくつも落とした。
「いれすぎですよ。」
「コーヒー豆が苦すぎるんだ。こんな苦い豆は……よもや腐っているのではあるまいな?」
「いませんよ。」
ロイエンタールは苦笑して、上官の美しい金髪を撫でた。暖炉の炎に照らされた髪に思わず彼は見惚れてしまう。これまでにたくさんの、それこそ掃いて捨てるほどの女性と付き合ってその中にたくさんの金髪を有した女性がいたけれど、これほど綺麗な髪をもった人間は広い宇宙でもそうはおるまいと思う。
「ロイエンタール。」
「なんでしょう?閣下。」
「卿は私が好きなんだな?」
「その通りです、閣下。何度も申し上げておりますように…」
ラインハルトの炎に照らされた白い頬を、ロイエンタールは優しく撫でた。滑らかな肌は弾力があって気持ちがいい。
「そうか…」
ラインハルトはその手をはらうことはせずに目線だけで俯いた。ラインハルトはどうしていいのか正直困っていた。好きな人はと聞かれれば唯一無二の親友と、実姉の二人の顔を即座に思い出すが、それは恋愛対象ではない。あくまで親愛であり、欲情の対象物ではありえない。そういうものとして見ることがもう耐えられない。ラインハルトには恋愛がわからない。興味もない。なのに、その頬の手を振りほどくことはできなかった。
「閣下は…」
聞かないでくれ、と胸中で思った瞬間に、家に訪問者を継げるベルがなった。
キルヒアイスは出てきたラインハルトに手にもっていたコートを羽織らせ、ロイエンタールに礼を述べた。
ロイエンタールは無表情でかまいませんよ、とだけ。
ラインハルトは羽織ったコートを引き寄せてキルヒアイスの後をおいかけながら、ちらりと後ろを振り返った。
ロイエンタールを見て、しかしラインハルトは何を言うこともできずに、そのまま走ってキルヒアイスの車に乗り込んだ。