告白
アレンは甚だ、驚くしかなかった。
それはある日のお昼時、いつものようにぎゃあぎゃあと神田と二人、つまらないことで食堂で言い合いをして(確か今日の喧嘩の理由は、アレンがソースでトンカツを食べていたところに、醤油を掛けろと神田が文句をつけてきたからだった)、積もり積もった食事時のうらみ、普段温厚で極力争い(強制排除)を好まないアレンにしても、楽しい食事をこれ以上邪魔されるのはもう我慢ならない。
アレンが切れて、いい加減にしてください神田!何か僕に恨みでもあるんですか毎回毎回突っ掛かってきて!と叫んだところ、何を勘違いしたのか顔を耳まで赤く染めた神田が、お前が好きだからだろ!!と食堂中に響き渡る声で叫び捨てて走り去ってしまった。
当代類を見ないほどの熱烈な告白を受けた当のアレンは、走り去った黒い塊を見送った後も、特に感慨はなかった。
むしろ、それならそうと早く言ってくれればいいのにと、一世一代の大告白をした神田が可哀想になるくらいの淡白さで食事を再開した。
目下彼の一番の関心ことは美味しくご飯を食べること、でそれを邪魔していた障害物が自分から消えてしまったのだから至極都合がいい。あーおいしーとトンカツを頬張りながら、それにしても人間の顔はあそこまで真っ赤になるものなんだぁと気楽に。
一番可哀想なのはその場にいた食堂の利用者で、毎度の痴話喧嘩にはさすがに慣れたものの、あの神田が(あの、冷酷無比乱暴者単細胞の、神田が)、顔を真っ赤にして告白している現場に居合わせてしまったことはもう不幸としか言いようがない。
その神田の顔をうっかり見てしまった者は、末代まで呪われやしないか戦々恐々とし、幸いにして神田の顔を見なかった者も何かこれは天変地異の前触れではないかと、そっと胸で十字を切った。
「お、おい、も、も、もやし…」
「どうしたんですか?」
いつもの威勢の良さはどこに言ったのか、1日ぶりに会った神田は豪くおどおどしていて、視点も定まっていない。そういえば目の下に隈も出来ているし顔色も悪い。肌が白いのはもともとだけれど。
薬でも極めてきたんじゃないかとアレンは一瞬心配しかけたが、そんなことは自分の気にすることじゃないし、と思い直した。
昨日はいつも通りの時間にアレンが食堂に行ったにもかかわらず、神田は突っかかってこなかった。というより、アレンの顔を見て逃げ出した。
その態度がなんとなく気に入らなかったアレンとしては、今日そんな殊勝な態度に出られてもあまり嬉しくない。わざとつっけんどんな対応で答える。出鼻を挫かれたのか、それともアレンの声がアレンが思う以上に冷たかったのか、神田は二の句が継げず唾を飲み込む。
「なんですか?」
ともう一度アレンが聞いたのは、別に神田が可哀想だからとかではなくて、暇だったからだ。
さっき注文した食事の量はすでに厨房の料理人たちの想定内ではあっても、すぐ用意できるほどの量ではない。
よってアレンは手持ち無沙汰。
おどおどした神田との会話に付き合っているのも、もうすぐご飯が食べられると思えば大事の前の小事に過ぎない。
「そ、その、お、おと…一昨日、の」
「なんですか?僕は何度言われてもソース派ですから」
「違う!」
アレンにとってはソースと醤油論議が何よりが一大事だったらしい。
神田が焦るのを見て、ぽんとアレンは手をたたいた。計算ではなく、素で。
「ああ、告白ですか?僕が好きだって言う」
あっさり言われて神田は再び絶句した。食堂のカウンター前はアレンと同じく配給待ちの団員たちが集まってきていたから、神田と一緒に彼らも一瞬固まった。もちろん厨房の中の料理人も、カウンターで注文を聞いていたジュリーも。
神田の大告白はすでに教団内の噂となっているけれども、一昨日(幸いにも)その場に居合わせなかった者も多くて、その実際見ていない者はみんな噂は半信半疑冗談半分だと思っていたから、アレンの言葉に付いていけずに硬直したまま動かない者も多かった。
一昨日その現場を目撃した人たちは、神田の告白に対してアレンのあまりの軽さに少し神田を哀れに思った。
アレンは固まったまま動かない神田を、おもちゃでも見る様にじーと観察してから少し首をかしげる。
アレンちゃん、出来たわよーというジュリーの声にアレンはありがとうございますーと応えてから
「いいですよ、僕神田のこと嫌いじゃないですし」
とだけ言って料理を受け取ると、もう神田には見向きもせず、嬉しそうにトレイ持ってテーブルに向かった。
「……おっけーだと、取っていいんだよな?」
「……たぶん」
たまたま神田の傍にいたファインダーは、聞かれて、曖昧にそう答えるしかなかった。