チョコボ英雄伝説 *ギャグです


ハル子は自分が生まれたときのことを鮮明に覚えている――彼女を取り上げたのは、2人の若い牧場主だった。エルリック兄弟(と言う名前は後で知った)から見てハル子は、父親が居なくなって初めての海チョコボの繁殖だったから、彼女が生まれたときそれはそれは喜んで。
ハル子の父親は、できの悪い山川チョコボだった。毛並みはそこそこにいいものの、レースに出してもほとんど走らず言うことも聞かない。
対照的に母親は当時牧場でもっとも賢いチョコボだった――が、レースを重ねクラスが上がるに連れ、同じSクラスでも普通のチョコボの彼女はレースについて行けなくなって、引退を余儀なくされた。もっとも、父親がギャンブルで失敗してから、エドワードは断固としてチョコボをレースに出そうとしなかったから、肩身が狭くなることはなかったけれど。

その母親は、ハル子を産んで暫くして、ミドガルズオルムに襲われて死んでしまった。年のせいで脚力が弱って逃げ切れなかった――ハル子は悲しんだが、それよりも怒りの方が大きかった。一緒にいた山川チョコボの父親が、妻を助けもせず、しかも飼い主であるエルリック兄弟を捨てて逃げたのだ。まだ幼かったハル子は、大好きなエルリック兄弟がボロボロになってファームに帰ってきた姿を見て、父親のようにはなるまいと心に誓った。

ハル子は人間が嫌いだったけれど、エルリック兄弟は好きだった。彼らはハル子をとても可愛がって、レースに出す気もないのに、とても高価なシルキスの野菜を惜しみなく食べさせてくれた。いくら牧場経営と言ってもシルキスの野菜程高価な野菜はチョコボ仙人の所で買うしかない――これは父さんが残していった分だから、と弟のアルフォンスは笑って食べさせてくれたが、賢いハル子は解っていた。売った方が絶対に儲かるのに。
だからハル子は、メテオが降ってきそうになって、逃げても良いよと兄弟がチョコぼうを開放しても決して逃げなかったし、借金取りが来たときも精一杯威嚇した。アルフォンスが、兄を変態の手から守るためにアルフォンスがチョコボレーシングの出場を宣言したときも、彼について行こうと思った。ハル子は、自分が出来る範囲で兄弟を助けたかった――金をちらつかせて結婚を迫る、金ですべて何とかなると思っている人間に、ぎゃふんと(古い?)言わせてやりたかった。

ゴールドソーサーに向かい、背中にアルフォンスを乗せて走るハル子――隣にはエドワードを乗せた黒い山川チョコボが併走している。オスカー号、ハル子より少し年上のそのチョコボはエドワードのお気に入り。元々はぐれチョコボで、野生のチョコボのボスだったらしい。ハル子が彼と始めて会ったのは、牧場にハル子以外チョコボが居なくなって困っていたときだった。エドワードとカームまで買い出しに出掛けた帰り、立派なチョコボがミドガルズオルムに襲われていた。
その周辺の湿地に多く生息するミドガルズオルムは、チョコボが大好物、と言っても、逃げ足の速い彼らが滅多に餌食になることはなかったが。しかし、運悪く足を怪我していた彼は逃げ切れず――いくらチョコボのボスとはいえ、ミドガルズオルムに正面から勝つことは出来ない。死を覚悟したらしい彼とミドガルズオルムの間に、咄嗟にハル子が走り込めたのは、彼女が脚力だけでなく度胸も賢さも兼ね備えていたからだろう。その時には既に一人前、ベヒーモスくらい余裕で倒す実力者のエドワードが、ミドガルズオルムを倒す位訳がなかった。
以来オスカー号と名付けられた彼は、エドワードとハル子に忠誠を誓っている。

―――繁殖期以外は。

砂漠の真ん中のゴールドソーサーに行くには、ロープウェイを乗り継がなければならない。メテオ前なら、他にも交通手段があったのだが、今ではこの方法のみ。さすがに人間と一緒のロープウェイには乗れないから、ハル子とオスカー号は一旦エルリック兄弟と別れ、貨物庫に。
「……臭う」
「どうかしたか?」
オスカー号が小さく呟いたのを耳敏く聞き取って、ハル子が長い首を隣に向けた。海チョコボである彼女の毛並みは金色に輝いていて、狭い貨物庫の中でもとても目立つ。それに理性鋭く輝く蒼氷瞳。
対するオスカー号は、闇色の羽に金銀妖瞳、片目は羽にとけ込むが如く黒く、片目は鮮やかな青い色。これが原因で飼い主に捨てられたと一度彼が漏らしたことがある。
彼はクェ、と忌々しそうに首を振った。
「いえ…こうもチョコボが集まるとどうも…臭いですね」
「そういう卿もチョコボではないか。まぁ確かに臭うが」
これだけ集まると、一匹や二匹不潔なチョコボもいるらしい。エルリック兄弟は彼らを家族同然に大切に世話してきたから、悪臭を放つと言う状態になったことはないけれど。
「頭の悪そうな奴も多いな…おそらく劣悪な環境で、安い餌しか食べてこなかったのだろう」
「御意」
悪臭だけならまだしも、この雰囲気は異常だとハル子は胸中呟いた。
グェグェと下品な言葉があちらこちらで飛び交うし、ハル子の隣の檻では一見毛並みの綺麗なチョコボがストレスからか、がしゃがしゃと柵に体当たりしている。
「閣下の隣は…」
「うむ。あまり関わらない方が良さそうだ。」
オスカー号の方に体を寄せてハル子が呟く。オスカー号がそれにあわせて庇うように首を伸ばした。隣の檻に向かって、クェ、と低い威嚇の鳴き声を出すと檻を揺らす音が静かになった。
「大丈夫だぞ?」
「もしもお怪我があれば大変です。羽をむしられたらどうするんですか」
というが、実際ハル子はあまり自分の毛並みの美しさとか外見に興味がない。エルリック兄弟やオスカー号、メテオの際にファームにやってきた人間達は、こぞって彼女を今まで見たことがない程美しいチョコボだと褒めるけれど、彼女にとってそれは飼い主に喜ばれて嬉しい以上の意味は持たない。
隣のチョコボなど、悪趣味にも手綱やくちばしにちゃらちゃらと大きな宝石をぶら下げて着飾っているが、そんなのは無粋の極み、とハル子は思う。
「もう少しで着きますから」
「解っている」
クェ、と返事をしたとき、巨大な爆音に貨物庫全体が一瞬沈黙した後、動揺が生まれた。
ハル子は少しきょろきょろと辺りを見回し、
「……今の音は?」
最後にオスカー号に顔を向ける。
「ゴールドソーサー名物の花火でしょう」
前の飼い主の元何度かゴールドソーサーに来たことのあるオスカー号は、爆音にも全く動じずに言った。
貨物庫内は少しのざわめきの後、先程までと同じ喧噪を取り戻した。
ハル子は興味深そうに、窓の外からわずかに漏れ入ってくる光を注視していた。
「あれが花火か…」
「花火が見えれば、時期にステーションに着くでしょう」
やれやれと言った様子でオスカー号は言った。彼は早くこの臭いから解放されたいらしい。
「あれが…ゴールドソーサーか…」
ネオンに光り輝く場所を見ながら、ハル子はここで頂点に上り詰めてやると決意を新たにした。