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痘痕が出来て一年。彼は銀河帝国軍の階級を上り詰めてついにその若さで帝国元帥の称号を与えられた。
「私をお恨みですか、閣下。」
執務室に呼び出された俺は、そのまま酒を飲もうと誘われた席で、長いこと聞きたかった質問を言葉にした。
暗い赤をした液体の入ったグラスを傾けて、彼、ラインハルト・フォン・ローエングラム帝国元帥はこちらを一瞥する。俺は視線を外した。一瞬目に入った、美しい右の瞳と、変形した左目が頭から離れない。
「恨む?」
「薬を、盛りました日を覚えていらっしゃいますか?」
「……あまり、」
覚えていない。彼は胸元に手をさしいれた。金色のロケットを指先で弄ぶクセは、大事な半身を失ったあの日からのものだ。少しだけ、蒼氷色の瞳に哀しみを湛えてからすぐにそれを奥へしまいこんだ。
「それに私はもう誰も恨みたくはない。」
「貴方の顔を、こんなにしたのは私ですよ。それでも、憎悪の感情を微塵もお持ちにならない?」
「顔?あぁ……顔…」
彼はワイングラスを傾けた。自然な色の唇が開く。綺麗な輪郭の右、ただれた左を開くのが苦しそうで、彼は随分飲み辛そうにしてそれを飲んでいた。
「顔など……視覚聴覚嗅覚触覚、あとは味覚があればよい。」
本当に、興味のないことを言わされたようなつまらない表情をなさる。
「そんなことより、飲め。」
空になったグラスに彼はボトルを傾けてアルコールを注ぎ込む。それを受けながら、俺はどうしようもない壁を感じずにいられなかった。
恨む事すらしてはくださない。いや、多分この方は恨んでいらっしゃるんだろう。
親愛していた友を亡くされた責任と罪の意識の圧迫を受けながら、彼との約束を果たすためにその身を燃やしていらっしゃるのだろう。じゃあ、その先は?
宇宙をその御手にお収めになられたその先は?
「何を、考えているのだ?」
手が、俺の頬触れた。合っていなかった焦点が目の前に定まる。薄暗い明かり、ベッドの軋む音。白く浮かぶ肌、沈む瞳。全てを映して、全てを遮断する蒼氷色の瞳。俺はそっと、口付けを落とした。綺麗な唇と、かさついた半分とを下でなぞる。どうしようもないほどに、美しい。
人間的な臭いなどしないような顔。その方が唯一人としての欲を見せる、ほんの一瞬。
「ぁっ、」
甘い声と吐息。その肌に何度も何度も吸い付いて、所有の印を残す。体に刻む。彼は、最初はそれこそ嫌がった。なのに今は拒絶すらしない。受け入れ、ではない。不感症なのだ。身体的にではなくて精神的に。
彼はそんなものに興味がないのだ。誰かのものになるとか、誰かを愛するとか、そういう感情がないのだ。
俺だってそんなもの、昔は興味がなかった。自己の性的欲求が満たされればそれでいい。相手が女だろうが男だろうが時間が埋まればそれでいい。愛の言葉が欲しいならくれてやる。俺は代わりに、時間を潰す事が出来ればいいだけだ。
ラインハルト元帥閣下は最愛の親友を失った傷を持て余していらした。俺はヤツがいなくなってそのポストが回ってくるなどと甘い幻想こそ抱かなかったが、それでもヤツがいなくなったのは事実で、そのことに不安と期待を俄かに入り混じらせたのもまた事実。しかし俺にヤツの役目が出来ない事などわかっていた。傷心の彼の心へ入り込む隙は多大に存在した。だが俺は迷った。踏み入れて、二度と戻れぬことになるのではなかろうか。引き返せなくなるところまでずるずると引きづられその四肢すらなくなるほどの暗闇へと行くのではないか。俺は、生気を失くした彼の横顔を見るに耐えなかった。
「ローエングラム公には立ち直っていただく。」
そう言ったのは確かに俺だ。けれど、それはあの時の本心であって今現在そうであらねばならない決まりはない。でもそれでは俺のしたことは一体なんだったというのか。わざとらしく作られたあの方の心の隙間に挟まれて自由に出入りが効くと思っているうちにそこからさらに奥へと自ら足を進めた愚行を呪いながら生きろと仰せなのか。わからない。それでも彼は、以前のような快活さを取り戻してくださったのは事実だ。
喜ばしいと、思わねばならないのか。
俺は、彼の身体を持ち上げ、白い脚を開脚させた。白い脚のつけ根に舌を這わせる。反り立ち上がったそこは濡れて、彼の香りがベッドに充満している。俺はラインハルトさまの前にそっと手を添えた。びくんと跳ねる背がベッドのスプリングを軋ませる。俺は構わず舌を後孔に挿入する。ひくつく内部は熱く、外の皮膚は汗をかいて俺の顔にべったりとくっついてくる。生々しい感触。神ではない、人間臭い痴態に俺は股間を熱くする。
「ローエングラム元帥閣下。」
名を呼んで、俺は自らのものに手をそえて、彼の肛門へ挿入した。腸壁からの熱と圧迫感が刺激を与えてくる。奥へ入れば入るほど、組み伏せた方の眉間の皺が深くなる。額に汗がにじむ。唇が、零れた唾液に濡れて艶めく。
「ぁあんッ、ん……うくぅ…」
声を殺そうと悶えて、自らの指を数本、その口に咥えて瞳を閉じる姿があまりにいとおしくて俺は性器を彼の奥まで容赦なく打ち付けた。内壁をそれで傷つけたところでどうにもならないことはわかっていても、俺はいじめてしまいたくなる。足掻いてしまいたくなる。俺はピストンを繰り返した。何をしなくとも、彼の性器は硬くなり先走りが惜しみなく零れて音をたてている。俺は射精の前にひきぬいて、自らのそれを彼のはちきれそうなそこに擦り付けた。じゅぶじゅぶと音を立てると、ラインハルトさまは呆気なく精液を吐き出された。先端から零れたそれが俺の性器をも汚した。その様に柄にもなく興奮を覚えて俺は、彼の下腹部に精液をぶちまけた。垂れて、内股に零れるそれを眺める。肩で荒い息をしているラインハルトさまの、ただれた唇から見える真っ赤な舌。俺は抱きしめてその舌に自分の唾液をたっぷり絡めた。長い長いキス。少しだけ抵抗する素振りをお見せになったので、俺は少し距離をとった。背の割には小さな両の手が俺の胸をそっと押し返している。掌がじっとりと汗ばんでいた。
「嫌ですか…?」
「まだ、する気か?」
「ええ、まだまだ夜は長いですから。」
俺は愛しい人の身体をベッドに横たえて、少しお待ちくださいと言葉を残して持ってきたカバンを漁った。寝室の薄明かりに照らして確かめる、銀色の、
「手錠…?」
「そうですよ。」
枕にもたれかかって上半身を上げられたローエングラム公はじっとこちらを見つめていた。淡い光に照らされた美しい瞳と、蒼白い痘痕に押しつぶれた左目に感情はない。声音も普段と変わらない。白い布団から見える白い肩の透き通った肌。神々しいと称されるその容姿から俺は目をそらした。
俺は、彼の姿に怯えている。
俺は手錠と、黒革の目隠しを取り出してベッドに座った。美しい側の頬を撫でて、金髪を指にからめとる。
「嫌がってくださってもかまいませんよ?」
「卿は私が嫌がるのを見て楽しみたいのか?」
「是非とも。」
我ながら時間の浪費だと思うような言葉を交わしながら、彼を再びベッドに横たわらせ、両手首を頭上でぴったりと合わせた。銀色の手錠をはめる。鎖の幅は五センチとない。ラインハルトさまは文句も言わずに俺を見つめていた。俺はその瞳に黒い革マスクを被せた。
「…何も見えぬぞ?」
「それでいいんですよ、ローエングラム公…」
俺は彼の布団をベッドの下に捨てて、その腰を片手で撫でながら、そっと太腿に触れて開脚させた。びくん、と初めて少しだけ怯えたような抵抗を見せたラインハルトさまはしかし次の瞬間大人しく両足を開脚した。膝をたてて、局部が薄明かりで露になる。
俺はベッドから降りて、ベッドサイドにあるワインセラーからそこそこ値の張りそうな赤を選んだ。さらに冷蔵庫を覗いていると、その音を効いていたローエングラム元帥が何をしている?と声を発した。
「ただセックスするだけでは面白みがないでしょうから…少し、趣向を変えてみようかと思いまして…」
「お前も好き者だな、ロイエンタール。セックスなど……頭で考えるものではないだろう。」
「しかしより快楽を求めようとするのは人間の本能ですよ。」
無意味な会話とともに俺はベッドに再び登った。M字開脚でさっきの精液を金色の陰毛にからめたままのそこは雄のにおいがした。
俺はワインのコルクを抜いて、一口口に含む。味は悪くない。そう思ってもう一口含んでいると、上から閣下の声がした。
「何の音だ?今、ワインのコルクが……」
しかしセリフは途中で途切れた。俺は、口の中のワインを、ローエングラム公の性器に口づけとともに吐き出した。突然のことでわけのわかっていない彼は、
「ひやぁッ!?」
と驚いた声を響かせた。俺は顔を放して、両手で零れたワインを彼の性器に塗りこんだ。若さから、すぐに力を取り戻すそことは違って、ラインハルトさまの声音は少し怒気を含んでいらした。
「ロ、イエンタール……何をしている?何をかけた?」
「さぁ?なんでしょう、当ててください。」
「なッ…ふ、ざけたことを………ぁッ、あんっ!」
俺は片手で前を擦りながら、ワインのビンを股間に向かって傾けた。鮮やかな赤が零れて彼の、まだ汚れていない性器と後ろの孔を濡らした。ベッドには派手な染みが広がる。
「ぁっ、つ、冷たッ…」
「すぐに熱くなりますよ。じわじわと……」
俺が吐息を吹きかけると、彼の手錠がかちゃり、と鳴った。苦しそうに唇を噛んで、両手首を握り締めて真っ赤に染めている彼の姿に俺は自らを熱くした。
「可愛らしいお方だ…」
彼の身体を持ち上げて、ひっくりかえす。うつぶせにして、膝で立たせた俺は突き出た尻にもワインをかけた。口に含んで、白い肉を開いて肛門に唇を押し付ける。舌で開いて、ワインを無理やりそこへ流し込んだ。あまり上手くは入らないが、何も見えないラインハルトさまの不安を煽るには十分だったろう。
「ああぁっ………何か入って…あぁ、熱い……」
獅子と称されるお方が子猫のように背を丸めて尻を突き出している様子は卑猥で、白い肌にピンク色の後孔が蠢くさまはさらに淫らだった。
「アルコールに酔われてしまったのかもしれませんね。」
「あ、アルコール…だと…?貴様、何を使って……!?」
「そのようなことを聞くなど野暮ですよ、ローエングラム元帥閣下。それよりも閣下は………バナナはお嫌いですか?」
「え…………ぁっ、あぁんっ!!」
俺はワインでふやけた肛門に皮を剥いていない黄色いバナナをねじこんだ。前から、彼自身から漏れている先走りをぬりたくってさらに奥へと突き立てる。
「や…あぐッ、ぅ……い、痛………」
手首を擦る音がする。見れば手錠に擦れた彼の白い手首に真っ赤な跡がついていた。俺は唇を歪ませた。
胸がじわじわと音をたてる。股間の先が下腹部に届くほど、俺は興奮していた。
「痛いですか?申し訳ありません、閣下。ならば、皮を剥いてさしあげましょう。」
俺はバナナをぐりぐりと奥まで突き刺してから、一気に引き抜いた。反り返る白い背を見ながら、ワインと血で汚れたバナナの厚い皮を丁寧に剥く。柔らかい白色が現れた。
「ロイ、エンタール…貴様そんな………今のはバナナ…?」
「そうですよ。たまにはこういうのもいいでしょう?」
「よ、よくなっ……ひやぁんッ!」
「ほら、貴方が食べやすいようにと皮を剥いて差し上げましたよ?どうですか、よく味わってください。」
俺は言いながらバナナを激しく出し入れした。もともと柔らかいそれがせまい入り口を通過して濡れた内壁を通るためよりぐちょぐちょと潰れた。肛門の入り口には彼の血と、擦れて削られたバナナが入り混じって、先走りとともに異臭を放っている。
ぐちょ、ぐちょ、ぐちょという卑猥な音にラインハルトさまは頭をふる。肩で耳を押さえようともがくがそれは無理な話だった。寝室は静かで、バナナの抜き差しする音と、ラインハルトさまの荒い吐息だけが響いている。
「ぁあっ、ん…いやぁ…」
「美味しいですか?ラインハルトさま…腰が揺れてますが。」
「あッ…ぁあ、ん……」
「もっと声を聞かせてください。バナナで、イくところを見せて下さい…」
俺はバナナの動きを一層激しくした。
「ぁっ、ひ、やぁああぁん!!」
空いた片手で硬くなった彼の前をきついくらいに擦り上げると、二度目であるにも関わらずローエングラム公はあっけなく達してしまわれた。